疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2017年5月の読書

5月の読書メーター
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ナイス数:52

ソ連という実験: 国家が管理する民主主義は可能か (筑摩選書)ソ連という実験: 国家が管理する民主主義は可能か (筑摩選書)感想
フルシチョフ以降のソ連の政治体制や社会についての論考を収録。抑圧的で表現や思想の自由の制約が強いという先入観がつきまといがちなソ連だが、娯楽施設を設けてほしいという国民の要望や、選挙の不正や役人の汚職に対する苦情への対応に追われる、といった民主主義の国家にありがちな側面が見えてきて目から鱗が落ちる思いがした。
読了日:05月01日 著者:松戸 清裕
宰相A宰相A感想
母の墓参りに向かったはずの作家Tは、いつの間にか民主主義をを謳いつつ「戦争による平和」を掲げるもう一つの日本というディストピアにいた。あり得なさそうで実はあり得るかもしれない、というリアリティがあり、捨て置けない作品であると思った。戦争云々よりも、無駄や頽廃を許容しない窮屈さが拭えない。作家や芸術家が登録制となっているこの国において、最後にTが登録を認められた経緯が恐ろしい。
読了日:05月15日 著者:田中 慎弥
@バスルーム (富士見L文庫)@バスルーム (富士見L文庫)感想
アイドル4人組の監禁事件を描いたサスペンス小説。twitterのアカウントを通じて助けを求める彼女らに対する野次馬の反応にリアリティがあって悍ましく、何とも胸糞悪い。ラストの展開はなかなか衝撃的。
読了日:05月17日 著者:川上 亮
スティル・ライフ (中公文庫)スティル・ライフ (中公文庫)感想
表題作『スティル・ライフ』はアルバイト工員の主人公と不思議な青年が織り成す、タイトル通り静的かつサイエンティフィックな雰囲気がたまらない不思議な作品。株や不動産投資の話題があるあたり、バブル期の香りが漂ってくる。『ヤー・チャイカ』はソ連時代のロシアから来た女スパイを交えつつ、ディプロドグスという謎の恐竜が登場するファンタジックな作品。というわけで、どちらもどこか浮遊感のある雰囲気に浸っていたらいつの間にか読み終えてしまっていた作品である。池澤夏樹の作品は他にも追っていきたい。
読了日:05月19日 著者:池澤 夏樹
毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)感想
マゾヒズムの語源になったマゾッホの思想を顕著に反映する、彼の代表作。ゼヴェリーンが美女ワンダに罵声や鞭打ちを受けて奴隷のように扱われる内に快感を覚えていく過程はやはり印象的だった。本作を読んでいて二人のやり取りは、SMという概念が浸透した現代のものとさほど変化がないのではないか。一方でゼヴェリーンも隙あらばワンダの弱みを握って形勢逆転を狙うなど、思ったよりも一筋縄ではいかない作品だった。
読了日:05月22日 著者:L・ザッヘル=マゾッホ
プラグマティズム (岩波文庫)プラグマティズム (岩波文庫)感想
アメリカの思想の基調をなし、実用主義とか実際主義と呼ばれるプラグマティズムの理論を説いた哲学書。哲学書だけあって難解な内容だが、「経験不可能な事柄の真理を解明することはできない」「信仰と科学、経験論と観念論、一元論と多元論、といった二項対立の間に立って調停する」といったプラグマティズムの輪郭を掴むことはできたと思う。
読了日:05月28日 著者:W. ジェイムズ

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