寝ながら学べる構造主義
- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2002/06/20
- メディア: 新書
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「構造主義」という一昔前に流行した思想の簡単な解説本。構造主義とは、特定の時代、地域、所属集団の条件が自分の物の見方、考え方を基本的な部分で決定しているのではないかと考える思想である。
そのため、構造主義に基づいて考えると、自分は自分で思っているよりも時代や地域の制約を受けているので、主体的に考え、行動しているわけではないことになる。本書では構造主義の旗振り役として、ソシュール、フーコー、ロラン・バルト、レヴィ・ストロース、ラカンといった人物が挙げられ、彼らの説が述べられている。
興味深いのは、実存主義との対比について。サルトルは「実存は本質に先行する」として自分の「意識」や「主体」を重んずる実存主義を唱えたが、レヴィ・ストロースはそんなサルトルを「『我思う』の虜囚」として批判し、「社会構造は論理や感情に先立つ」と喝破した。結局、どんなに自分の主体性を尊重しても、社会構造の影響からは逃れることができないということがよくわかる。
他にも、ラカンの「記憶とは、過去の真実ではなく、思い出しながら形成されている過去」という説も印象に残っている。過去を思い出すのは、聞き手に自分が何者であるのかを理解、承認してもらえそうな場合のみで、そこには「自分が何者だと思って欲しいのか」というバイアスがあるらしい。
「言語活動の機能は情報を伝えることではない。思い出させることである」という言葉がその思想を端的に表している。記憶が真実であるかどうかは別として、他者とのコミュニケーションの間で「私」はリアリティを増していき、承認されていく、ということだろうか。
現在こうしてレビューを書くという行為も、構造主義的に考えれば、主体的に書いているつもりでも、実は社会的事情により書くことを選ばされていることになる。このように、今の自分を自分たらしめているものは何か、これは自分が主体的に行なっていることなのか、それとも行わされているのか、といったことを考えてみることは、自分の立ち位置を明確にすることだし、興味深いことなのではないかと思っている。