疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

帝国主義論

帝国主義論 (光文社古典新訳文庫)

帝国主義論 (光文社古典新訳文庫)

理論家としてのレーニン

【レビュー】
 ・帝国主義は過渡期の資本主義であり、死に至る資本主義である



これぞ私が探し求めていた一書!資本主義とその発展形態の帝国主義の問題点を明晰な論理で抉り出した名著である。本書の価値は、現代が金融資本を初めとした多国籍グローバル企業が幅を利かせている新自由主義の時代だからこそ際立ちつつある。

市民革命により私有財産権を得た資本家は、産業革命によって生産力を向上させ、自由競争を勝ち抜いていく。ところが、レーニンはここで自由競争がいつしか生産と資本の集中を招いてきたことを指摘する。そして欧米列強で独占的な大企業が形成され、小企業の生産・販売を妨害して不当廉売により駆逐してきた歴史を、具体的なデータを以て証明する。その資本主義という名の怪物の正体が白日の下に晒されていく過程には、恐懼と共に胸が透く感覚があった。
 
このように巨大化した産業資本*1は大手銀行など金融資本と融合して金融寡頭制を形成。これは加速度的に資本の独占と海外進出を促し、海外植民地に資本を輸出して植民地を分割する帝国主義が貪欲に世界を喰らい尽くす。こうして支配欲が自由意志に取って代わり、一握りの富める国や強い国に搾取される弱小国が増加の一途を辿る。また、この寄生・腐敗的な資本主義は金利・配当所得に依存するブルジョアや彼らに加担する日和見主義的な労働者によって支えられていく。

レーニンはこれまでの自由競争に基づく行き着く先が帝国主義となるのは必然であることを説く。曰く、帝国主義は過渡期の資本主義であり、死に至る資本主義である、と。同時にそのために社会主義革命もまた不可避であることを主張したのは言うまでもない。ここまでの論理展開は透徹であり、論ずる内容の是非はともかく、論理的な文章の書き方にも参考になると思った。

 最後に、レーニンによる帝国主義の定義を改めて確認したい。

(一)生産と資本の集中化が非常に高度な発展段階に到達し、その結果として、独占が成立していること。そして、そのような独占が経済活動において決定的な役割を果たしていること。(二)銀行資本と産業資本が融合し、その「金融資本」を基盤として金融寡占制が成立していること。(三)商品輸出ではなくて資本輸出が格段に重要な意義を帯びていること。(四)資本家の国際独占団体が形成され、世界を分割していること。(五)資本主義列強が領土の分割を完了していること。
同書175頁より

*1:本書が扱う19世紀後半~20世紀初頭は石炭・製鉄など重工業資本が特に有力だった