疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

永続革命論

永続革命論 (光文社古典新訳文庫)

永続革命論 (光文社古典新訳文庫)

ザ・トロツキズム


トロツキーによると、プロレタリアートによる革命は間断なく続き、権力掌握後も絶え間無く変革が起こる故「永続革命」となる。つまり、ロシアにおける革命がブルジョアによる形式的な民主主義を経て社会主義革命が起こるのではなく、一足飛びにプロレタリアートが権力を握る社会主義革命へと至り、その後も不断の内部闘争を革命が永続的なものになると論ずる。

その裏付けとして、トロツキーはロシアの近代化が後発的だったために、西欧の最新の政治・経済的資源を享受して西欧と異なる「複合的発展」を遂げることを説く。同時に彼はロシアの経済が後進的で国際的に孤立していたことを明らかにし、その復活のために、工業的技術や金融資本など最新の世界経済の資源を利用する必要性を強調する。このプロセスを経た経済発展は西欧のそれを模倣したものではなく、ロシア独自の経済発展となるため「複合的発展」と呼ぶ。

然るに、スターリンらの一国社会主義はロシア独自の政治的・経済的構造を無視し、ロシアがプロレタリアートによる革命を経た後、後進諸国に革命を「輸出」しようというメシアニズムだった。トロツキーはプロレタリア革命の持つ一国の枠組に留まらない国際性、国内外の政治的・経済的変動といった要素を考慮しない閉じた政治体制=一国社会主義がいずれ破綻することを説く。スターリンらがレーニンの後継者として権力を掌握し、本書の著者であるトロツキーをはじめ政敵を排除した時点で、ソ連がその道を辿ることは必然だったのかもしれない。

本書は主に「トロツキーは農民の役割を否定した」などといったスターリンやラデックといった一国社会主義論者による批判に対する反論に多くのページを割いている。その中でトロツキーは農民を過小評価したのではなく、農民の役割を取り違えているスターリンらに反駁する。曰く、農民は中間的地位や社会的構成が不均質であるが故に独立した政策や党を持つことができない。そのため、革命によって権力の座に着いたプロレタリアートが農民を解放する、という手続を経ざるを得ないことを明かす。永続革命はプロレタリアートによる孤立した飛躍ではなく、プロレタリアートの指導下での国民全体の刷新なのだ。

こうしてみると、トロツキーの諸国間の発展段階に着目した見方はいろいろ応用が利きそうで便利だと思った。そういう意味で物の見方を広げてくれる一書だったと思う。