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L'aube de l'horizon

ごきげんよう

FLOWERS 春篇

レビュー ゲーム 百合

正直、初プレイ時は百合ゲーを甘く見ていたが、作品のレベルもストーリーの結末も決して甘くはなかった。今回もネタバレを含むので注意。

FLOWERS

FLOWERS

ハイクオリティな百合ゲー

FLOWERSは春夏秋冬の四篇から構成される、百合系ミステリィと銘打たれたノベルゲーム。最近ゲームはほとんどご無沙汰だが、まず端正で繊細な絵柄とテーマに惹かれてつい手を伸ばしてしまった。この淡い色彩と光の質感が何とも言えず、素晴らしい。

春篇で主に描かれるのは主人公である白羽蘇芳と勾坂マユリ、花菱立花、二人のアミティエ(友人)との絆と、彼女たちの精神的成長。蘇芳は不登校の経験と、家庭の事情に起因する深いトラウマを抱えるも、友達を作るため、授業から寝食までを共にするアミティエ制度のある全寮制の聖アングレカム学院に入学する。特に彼女については、小心さと人見知りぶりを見せながらも、要所要所で意を決して人間関係のこじれの解決を図ったり、自分自身の弱さと向き合ったりすることで、当初とは見違えるほどの成長ぶりが顕著になっている。個人的には「血塗れメアリー」の怪談の真相を突き止めるため、マユリや立花を含めた友人たちと夜中に校舎に忍び込むことになったときの蘇芳の喜びぶりが何ともヴィヴィッドで、その嬉しさがダイレクトに伝わってきた。

作中の要所要所で引用されるのが、小説(主に古典文学)や映画の台詞。これは蘇芳の趣味が読書と映画鑑賞ということによる。弱気になって自分を奮い立たせる時や、落ち込んだ自分を励ます時の他、共通の趣味を持つ「書痴仲間」とのコミュニケーションを図るため、小説や映画の台詞を用いることで、本作の洗練された文学的な雰囲気を醸し出すことに役立っている。10代半ばの少女たちの会話にしては随分オシャンティーというか、レベルが高すぎるような気もするが、それは本作が一種のファンタジーであるということで、ここはひとつ。

一方で、アミティエが3人であることで避けては通れない問題も生じる。そう、三角関係である。物語の中盤から主にマユリと立花との間で、どこかねっとりした不穏な雰囲気が生じ、それが蘇芳にも波及していく。このあたりから、マユリにも立花にも複雑な生い立ちがあることが明らかになっていくが、その中で見せた立花のアプローチぶりが凄まじい。模範的な級長として通っているということもあって、平生の彼女とのギャップが大きかった。でもやはり、不安で自分の思いを相手に繋ぎ止めたいからといって、相手の弱みを握って強引なやり方で関係を築いても、破綻は免れ得ない、という無難な着地点に落ち着くということだろうか。

この危機を乗り越えて、物語の終盤、聖母祭という一大イベントを迎える3人。マユリが主役たる聖母役、蘇芳がピアノの伴奏役として抜擢される。蘇芳は過去のトラウマにより、ピアノを演奏しようとするたびに悪心が生じるが、なかなかこの心の傷を克服できず、何度も逃げ出す、という展開が見ていて辛かった。そのためか、マユリや立花、その他入学後関係を築いた友人や先輩の支えもあり、聖母祭を成功に導く、という流れには、胸に込み上げてくるものがあった。だからこそ、最後のレイニー止め*1の悪夢再来とも言える結末には、続篇である夏篇が出るまで、本当にやきもきさせられた。しかも本家レイニーブルーよりも待たされる期間が長い。

振り返ってみて、気になった点をあえて述べるなら、本編を通して数回推理パートが存在するが、多くの選択肢がマニアックなクイズになっていること。蘇芳が文学通ということで、雑学にも詳しいことには何となく察しが付くが、元々本作は百合系ミステリィと銘打って宣伝がなされていたので、少々これはどうなんだろう、と思った。

とはいえ、本作が友を得たり、困難を克服する喜び、楽しい時を共有する楽しみ、友とのすれ違いによる不安、別離の悲しみ、全てが色鮮やかに表現されているハイクオリティなノベルゲームであることには間違いない。やはり「マリみて」の流れを汲んだ王道を往く百合物語なんだと思う。

*1:鬱展開に入ったまま次回へ続くことになった作品の続きを待たされること。『マリア様がみてる』の第11巻「レイニーブルー」の終盤が、主人公の祐巳と憧れの先輩・祥子との間で仲違いが起き、悲しみのあまり祐巳が雨の中泣き崩れるという鬱展開に入ったまま次巻に続くことになったことに由来する。