疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

FLOWERS 夏篇

前回の記事、春篇のレビューに続いて、今回は夏篇。春篇ももちろん好きだけど、個人的にはこっちの方が好み。

FLOWERS夏篇

FLOWERS夏篇

出会いは最悪だったが


夏篇の主人公は、春篇を通じて蘇芳の「書痴仲間」*1となった八重垣えりか。本作は、そのえりかと最悪の出会いを果たした転校生で、彼女のアミティエとなる考崎千鳥との関係を描いた物語となっている。現実世界では会った人の第一印象が悪かった場合、そのまま二度と会わない、で終わることが多いだろうが、物語の世界では後々印象をよくするための展開をドラマチックにししていくための手法になる。本作の脚本は、その手法を忠実に体現したものだった。

えりかと千鳥、この二人は方向性は違うものの、自分と他所との間に一線を引き、一定の距離を置く姿勢は共通しており、学園生活を通じて蟠りや緊張感が解け、周囲に馴染んでいく過程が丁寧に描かれている。朝食でサラダばかり食べていた千鳥が、えりかと食事を共にする間に、食べるもののバリエーションが次第に増えていったことからも、それがよくわかる。

そんな似た者同士(?)の二人であるためか、諍いや衝突*2も多いが、朗読劇とバレエといった行事を通じて着実に絆を深めていく、というストーリーは春篇と対照的だった。蘇芳は相手と仲良くしたいという思いは強くても、小心さと口下手さでチャンスを逃して空回りするタイプで、えりかは皮肉屋で人をからかうのが好きな一方、自分の考えはざっくばらんに語るタイプだし。そんなわけで、春篇はどこかトラウマに陥る主人公の姿やら、三角関係やらで、どこかねっとりとした雰囲気だったが、夏篇は二人が衝突しても根に持たず、すぐ仲直りするだろうな、という安心感と爽やかな雰囲気があった。趣味は共通しているからか、小説や映画の台詞を引用しているのは同様だったけど。

本作でも「百合系ミステリィ」という謳い文句は健在。春篇のようにマニアックなクイズではなく、テキストの内容を理解していれば解ける推理問題になっている。辛くとも真実を明らかにしようとする蘇芳の姿勢と、その場を無難に丸く収めようとするえりかの姿勢の対比が示されており、えりかの蘇芳に向けた少し複雑な感情の一端も垣間見える。

エンディングについて言及すると、トゥルーエンドよりも最後の選択肢の選び方で分岐して至る親友エンドでの中の人の演技の方が印象深かった。ストーリー的にはトゥルーエンドの方がもちろんベストではあるけれども。春篇に立花ルートがあったように、夏篇にもダリアルートが存在し、選択肢次第で分岐する。ダリア先生がえりかの憧れの女性であることが判然とするが、彼女を憧れの人に位置付けるあたり、人材配置の妙だと思った。大人の女性で善意と包容力に溢れた人だから、えりかの一面がよくわかる。

そして、全てのエンディングを見ることで蘇芳視点で夏篇のストーリーを追ったExtraモードがに入れるが、やはりマユリを忘れられない模様。どうやら八代譲葉はマユリの失踪についての真相を知っているような口ぶり。というわけで、秋篇は譲葉を主役としているようで、マユリの件についても掘り下げがありそうだが…。

何はともあれ、秋篇が待ち遠しいが、Vita版が出るのは来年ということになるだろうが、やはり待ち遠しい。本作をプレイする前の2月、GLFesで見た限りでは、大いに期待できそうだった。

*1:あくまで友人ではない、というポジションに彼女のこだわりがある。

*2:プライドの高い千鳥がつむじを曲げてしまう場合がほどんどだが