疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

殿、利息でござる!

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庶民の知恵が苦境を乗り切る時代劇


結論から言えば、なかなか面白かった。自己負担で馬を買って隣の宿場に物資を運ぶ労役である「伝馬役」の負担に喘ぐ貧乏宿場町の人々が知恵と資金を出し合って苦境を乗り切る実話に基づいた映画。藩主に貸した金の利息をもとに借金を返済するという、逆転の発想を思い付き、投資を募って元手を工面しようとするが…。

伝馬役というと日本史の教科書では、簡単な解説がある程度で「そんなにきついものなのかな」程度にしか思っていなかったが、馬を購入する資金と労役を自己負担する必要があるし、町内で借金が払えずに夜逃げする者が相次ぐあたり、相当重い負担だったんだな、と。

奇しくも「知恵と工夫で窮地を乗り越える」という筋書きが、ちょうど訪れた映画館に展示のあった「ガールズ&パンツァー」と通じるものがあった。実写とアニメという差もあるし、観客の層もあまり被らない映像作品同士だが、大概人に愛される作品の筋書きというものには共通点が多いのかもしれない、と思った。

全体を通して言えば笑いあり涙ありの人情味溢れる時代劇エンターテイメントという印象だった。あと仙台という同郷の誼みからか、羽生結弦が仙台藩主の伊達重村(伊達政宗の子孫)の役で友情出演したのが驚き。本業があるからか出番は少ないものの、気品があるから殿様の役が思いの外はまっていた。松田龍平演じる萱場杢はなかなか憎々しい役だった。萱場は藩の財政を掌握する出入司として搾り取れる限界まで十三郎らに資金を出させようという意気込みが窺えた。

終盤でようやく重村のお出ましだが、やったことは親子2代50年にわたって身銭を削ってコツコツ貯めた資金を使い果たしたために廃業しかかった造り酒屋の浅野屋を救うため「自分の名付けた酒を売ってくれ」に酒を命名したことのみ。出番としてはこれだけだが、庶民の訴えに真摯に向き合った殿様という役どころになっている。やはり羽生結弦に変な役はさせられないということか。

というわけで、2016年3本目の実写映画は「マネー・ショート」に続き、お金にまつわる話を題材とした作品となった。自分ではさほど強く意識しているつもりはないが、金が絡んだ時の人間ドラマに期待しているのかもしれない。

原作は磯田通史『無私の日本人』収録の「穀田屋十三郎」だけど、こちらも気になってきた。十三郎、甚内兄弟に影響を与えた思想書『冥加訓』のことについても調べてみたい。

無私の日本人 (文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)