疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

戦姫絶唱シンフォギア

少女の歌には血が流れている

先月中にいつの間にか3期全39話を見終えてしまったアニメ。
控え目に言ってクッソ面白かった。何と言っても自分好みのエンターテインメントの要素は大体盛り込んである作品だから。ド新人が亡き先代を継いで戦いに挑むとか、昨日までの敵が今日の味方になるとか、要所要所に挟まれるウケ狙いのシリアスギャグとかね。こうして感想を書き上げるまでに時間がかかったのは社畜モードに入っていたために、精神的にも消耗して時間もなかなか取れなかったことや、当初は「よくわからんが何だかすげえぞ!」みたいな感想しか湧かなかったという事情があるためである。

掘り下げた内容は追々触れるが、制作者側が好きな要素を容赦なく投入したからこそ本作が質の高い娯楽として成立していると私は思っている。

立花響のヒロイズム

主人公である立花響が亡き天羽奏の意志を継承し、ガングニールのシンフォギアを纏って奏の相方だった風鳴翼と共に人類の敵であるノイズとの戦に身を投じる、というのが本作1期のあらすじ。言葉で説明すると単純であっさりとしているが、そこまでには紆余曲折がある。

最初は翼に覚悟の甘さを咎められた響だが、雪音クリスとの戦いを経て半人前ながら戦う意志があることを認められる。その一方で「誰かの助けになれるというだけで命を懸けた戦いに赴けるというのは歪なこと」「前向きな自殺衝動」などと戦う姿勢の危うさを指摘されてきた響。そんな彼女にとっての転機は親友の小日向未来のピンチ。シンフォギア装者として戦っていたことが発覚して仲が険悪になっていた未来との仲が険悪になっていたがピンチを救うにあたり、響は自分が戦う理由が2年前の事件から生き残ったサバイバーズ・ギルトではなく、

戦っているのは私ひとりじゃない。シンフォギアで誰かの助けになれると思っていたけど、それは思い上がりだ。助ける私だけが一生懸命なんじゃない。助けられる誰かも一生懸命。本当の人助けは自分ひとりの力じゃ無理なんだ。だからあの日あの時奏さんは私に『生きるのを諦めるなッ!』と叫んだんだ。今ならわかる気がする。私が誰かを助けたい気持ちは、惨劇を生き残った負い目なんかじゃない、奏さんから受け継いだ気持ちなんだッ!」1期8話「陽だまりに翳りなく」より

ということを悟る。未来の側も響の力になりたいがなれない無力感や自責の念をそれが解消されるのはG(2期)10話で自らが放つ神獣鏡ビームでガングニールの破片に侵食されていた響の問題も一挙に解決できてよかったね!思い付きを数字で語れるものかよッ!イレギュラーな手順ながら、死に向かって疾走する響を救った未来は助けられる側から響と対等の立場に立つことになった。その前から響にとって未来は心の拠り所*1だったが。それがG13話で世界を救ったソロモンの杖大遠投につながっていることを踏まえると、全く油断ならない展開である。一時も目を離せない。

剣から翼へ

もちろん風鳴翼の活躍についても語らずにはいられない。響の戦う覚悟を認めたあたりから口調が男性的に変わった翼だが、彼女こそ本作のコメディリリーフ兼頼れる先輩格にあたるキャラである。クリスとの戦いで翼の天ノ逆鱗を「盾?」と訝しんだクリスに「剣だッ!」と切り返したのはどう見てもシリアスギャグ。その後も生き恥を晒しながらも響が戦えない状況に陥りながらも戦場(いくさば)の前線に立ち続ける。その生き方はストイックな生き様は、自身を「剣」に例えているだけのことはある。

そういった背景もあるから、GX(3期)9話で剣と認識したものを破壊する哲学兵装を用いるオートスコアラーのファラに窮地に追い込まれるも自分がただの剣ではないことを悟ったシーンに素晴らしくカタルシスがあった。

剣に非ず!貴様はこれを剣と呼ぶのか。否、これは夢に向かって羽ばたく翼。貴様の哲学に翼は折れぬと心得よッ! 3期9話「夢の途中」

「剣」である自分にこだわっていた翼が自分の殻を破った瞬間である。防人系アイドルの始祖にして頂点は伊達ではなかった。ギャグも全力だでやるが、戦闘シーンも全力だからこそ心に響く。そのような楽しそうなことは徹底的に追求する手抜きや誤魔化しのない姿勢こそがシンフォギアの神髄だと思う。投手が全力投球するからには、捕手としては全力で球を受け止めずにはいられない。本作においては作る側だけでなく、見る側も一生懸命なのだ。私の場合は一生懸命ついて行こうと意識したことはなく、いつの間にかフォローしていたという感がするが。

それはともかく、この回はマリアとの共闘もあって熱かった。GXは敵の頭目が年端もいかない子供であったり、錬金術や哲学の概念が登場したり、「とある魔術の禁書目録」に通じる性格が強かった。「禁書」はライトノベルおよびアニメの中でも好きな部類に入ることもあり、私はシンフォギアの中では1期やGの集大成とも位置付けられるGXが一番好きである。

教室モノクローム

私が本作で一番好きなキャラが雪音クリスである。なんというか、彼女には放っておけなさを感じる。この頃から一応一般人の未来を戦闘に巻き込んだことに動揺したり、迷子を助けたりと、一見やさぐれているようだが彼女最初クリスはフィーネの指示で響を拉致するために彼女を襲撃するも、失敗してフィーネに見捨てられる。その後は風鳴司令や未来に野良猫の如く彷徨っていたところを助けられ、響のアプローチにより二課の仲間入り。その後は得意の重火器を使って雑魚敵の殲滅戦を中心に活躍したり、後輩の調や切歌の前で先輩面したがったりとあざとい単にかわいいだけではなく、戦闘シーンから天然ボケの要素が強い響や翼の突っ込み役まで、場面を選ばない活躍を見せてくれる。

クリスを語るうえで避けては通れないのがG4話の秋桜祭で「教室モノクローム」を歌うシーンである。ここで「教えてやる、あたしは歌が大好きだッ!」と語るクリス。だが、奇しくも1期4話で「あたしに歌を歌わせたな!教えてやる、あたしは歌が大嫌いだッ!」と語っていたことを振り返ると感慨深い。

幼い頃に両親が非業の死を遂げて以来、悪意ある大人に騙され艱難辛苦を味わい、人間関係作りに後ろ向きだったクリスがようやく居場所を獲得できたことを実感できる名シーンである。エンディング曲と打って変わってしっかりキャラ声で歌う高垣彩陽さんに脱帽!結局死亡フラグだったという懸念はあっという間に払拭された。この萌え豚御用達のあざといシーン、これが他のアニメだったら「ふーん」か「おいおい」で終わったろうが、本作は少女たちが戦場(いくさば)で命を賭して泥臭く戦う戦姫絶唱シンフォギアである。萌えシーンも全力投球。これぐらいやっても罰は当たらないだろう。むしろもっとやれ。やっさいもっさい!



最後に。いろいろまとまりのないことを書いていたら、最近はなかなか書いていないレベルの長文になってしまった。マリアや調、切歌についてもっと語りたかったけど、今日はここまで。それにしても今回は打ち消し線が多い?それはまともに突っ込むと恥ずかしいからだよ言わせんな恥ずかしいそんなこと言うなら地獄の底で閻魔様に土下座して来い!

*1:響曰く、「陽だまり」