疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

立華高校マーチングバンドへようこそ

強豪校らしい空気感と人間関係


ご存知「響け!ユーフォニアム」シリーズの小説。10月からアニメ2期に備えて読んでみることに。本編の主人公の久美子や麗奈の中学校の同級生で、本編でもわずかに出番のあった佐々木梓を主人公とするスピンオフ小説。久美子や麗奈など、本編のキャラも出しゃばらない程度に登場して少しだけストーリーに絡むのもよかった。本編の小説は未読だったので、関西弁を喋る麗奈に最初は戸惑うも、すぐに慣れた。

梓の通う立華高校はマーチングの強豪校。それゆえ、練習に向けた熱量、一人ひとりが真剣であるがゆえに度々起こる衝突と、緊張感のある展開が続く。面倒見が良いが八方美人であることを見抜かれている梓と、彼女に憧れ初心者ながら奮闘するあみかの姿が印象に残った。なので、上巻のエピローグであみかが放った一言は鮮烈だった。梓はあみかの面倒を見る自分に存在意義を強く感じていたようだし、あみかもそんな梓を頼りにするシーンが多く、どう見ても共依存の関係だったし。そこに、梓の元同級生で久美子たちと同じ北宇治高校に通う芹菜の存在が不穏な空気を添える。

下巻も上巻の流れを受けて二人の人間を中心としたストーリー展開になっている。あみかの一言もあってか、どこか疎遠になっていく二人。栞の厳しい指導に何とか食らいついていくあみかと、それを見てはらはらした不安を隠せない梓、梓のそんな姿を見て苛立ち隠せず、悪態をつかずにいられない芹菜。この三人の青春ドラマから目を離せなかった。芹菜はあみかに構ってばかりの梓が許せなかったのだろう。そして、このような波乱を含みながらも、練習に励む梓たちが練習に励む姿はまさに青春だった。

最後に印象に残った芹菜の台詞を引用してみたい。引用しているうちにしみじみと感じたけど、この子は一応懇意の幼なじみがいる久美子、滝先生一筋の麗奈、保護者的ポジションに生き甲斐を感じていた梓とは違って結構ガチかもしれない(意味深)。相手を見返してやりたいって感情は百合なんだよな…。

「北宇治に行って正解やった。いろんな子と話せるようになったし、中学のころの私を知ってる子はほとんどいない。私だって過去と決別したかった。それで、いつまでも同じ場所でくすぶってるアンタを見返してやりたかった。ねえ、梓。私、アンタを見返したかった。私を捨てたこと、悔めばいいと思った。あんな子なんかより芹菜がいいよって、言わせたかった」 下巻307頁