疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2019年2月の読書

2月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2693
ナイス数:89


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地球が寂しいその理由 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)地球が寂しいその理由 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)感想
それぞれ地球と月の環境を統括管理するアリシアとエム、2人のAIの姉妹のやり取りを中心とした物語。と言うと巨視的で真面目そうな話に聞こえるが、マクドナルドあたりで駄弁っていそうな女子高生2人の会話が専用回線で繰り広げられるという微視的な展開がメインなので不思議な感じがした。結末はなんとも寂しいが。
読了日:02月07日 著者:六冬 和生
〔少女庭国〕 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)〔少女庭国〕 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)感想
奇書の類と言っていい衝撃的な作品。一見卒業を迎えた女子中学生同士のバトルロワイヤルの衣をまとっているようだが、その実態は単純な殺し合いを逸脱した一種の箱庭的シミュレーションだった。その著述スタイルも異彩を放っており、観察レポートのように徹頭徹尾あらゆる感傷を排して記すというもの。本作は電子書籍で読んだが、読む人を選びすぎて絶版になってしまったのもわかる気がする。
読了日:02月10日 著者:矢部 嵩
バイ貝 (双葉文庫)バイ貝 (双葉文庫)感想
憂鬱を晴らすために中華鍋などを買い漁ってみた、という内容。親近感のある内容を軽妙な筆致で語るユーモラスなエッセイだった。
読了日:02月10日 著者:町田 康
星を継ぐもの (創元SF文庫)星を継ぐもの (創元SF文庫)感想
非常に面白かった。放射性炭素測定により5万年前に月名で亡くなったことが判明した「チャーリー」の正体を突き止めるべく、物理学者ハントをはじめとした学者たちが侃侃諤諤の議論を交わしていくことがストーリーの根幹となるハードSFの名著。研究の進行により新たな証拠や矛盾が発見されるたびに今までの仮説が覆されながらも真相に迫っていく筋書きは、さながら探偵が殺人事件のトリックの解明に挑む推理小説のようであった。
読了日:02月11日 著者:ジェイムズ・P・ホーガン
キネマの神様 (文春文庫)キネマの神様 (文春文庫)感想
シネコンの運営会社の課長から映画雑誌のライターに転職した主人公と、映画をこよなく愛するその父親をはじめとした一家とその周囲の人々の物語。主人公の転身を機に、各々がそれまでの顧みることのなかったことを振り返りつつ物語が進んでいく。家族の絆の再生をハートウォーミングに描いた良作。
読了日:02月13日 著者:原田 マハ
資治通鑑 (ちくま学芸文庫)資治通鑑 (ちくま学芸文庫)感想
為政者=皇帝の統治に資することを目的とした宋代の政治家・司馬光による歴史書の中から、三晋の成立、党錮の禁、侯景の乱、安史の乱の箇所を抄訳したもの。文学的修辞を排して史実を淡々と述べつつも、王朝の危機的状況下で君主や政治家の在るべき姿勢といった司馬光独自の視点が時折表れるのが特徴。最低でも高校レベルの漢文と中国史の知識がないと通読するのも一苦労だろうが、読む価値は十分にあると思った。
読了日:02月22日 著者:司馬 光
嘔吐 新訳嘔吐 新訳感想
再読して本書の趣旨がわかってきた気がする。自らが存在する理由はどこにもなく、語り部のロカンタンが語る「私」はただ宙をふらふら漂う不安定な存在。だから地面に食い込むマロニエの根を見て耐えがたくも甘ったるい嘔吐感を催した、という風に解釈した。独学者が語るようにどこか諦観を感じる厭世主義的な内容で、一人称が「僕」であればまさに村上春樹の小説になるのではないか、と思った。
読了日:02月24日 著者:J‐P・サルトル
承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)感想
後鳥羽院の朝廷が鎌倉幕府の実権を掌握していた北条氏を討とうとして失敗した承久の乱の概説。互いに政務にも文化的活動にも熱心だった後鳥羽と将軍源実朝が存命中は朝廷と幕府の関係は良好だったこと、挙兵にあたっては歴戦の御家人よりも大江広元三善康信といった京都出身の文人幕臣の方が積極的な迎撃を訴えたことなど、最新の知見が盛り込まれており、読み応えがあった。
読了日:02月28日 著者:坂井 孝一

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