疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

響け!ユーフォ二アム 誓いのフィナーレ

ブログ記事としては大遅刻。結局今日までに4回は劇場に足を運んだ。

過去記事

アニメ1期&劇場版

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届けたいメロディ(劇場版)

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原作小説シリーズ

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お二人、距離近くないですか?

とは今回も健在なくみれいの(物理的な)距離の近さに言及した鈴木美玲後輩の台詞である。二人は引力で結ばれているから仕方ないね。黄前久美子高坂麗奈は「普通じゃない?」返したが、やっぱりくみれいは新入生も認める最強カップルだということを痛感する*1

自由曲「リズと青い鳥」の扱いが思っていたよりもずっと大きかったことに驚き。麗奈は大吉山の上で演奏しちゃうし、丸々関西大会で演奏シーンがあるし。のぞみぞはセリフこそなかったが、ソロパートを演奏する2人の姿は輝かしかったどころか神々しかった。

それに比べれば久美子の秀一への接し方はどこか塩対応のような気がする。幼なじみ相手だから少々雑になるのか。秀一、典型的なラノベ主人公ほど草食系男子でもないしイケメン高身長で性格までいい優良物件なのに。冒頭の雪の日の喜撰橋のシーン、結構好きなんだけどな。

本作については『リズと青い鳥』の時と同様、平成と令和、2つの年号を挟んだ期間にケイ4回映画館まで鑑賞しに行った。特に立川シネマシティでの極音上映は至福の1時間半だった。「リズと青い鳥」終盤のコンクールのシーン、生演奏を聴いているかのような臨場感のおかげで耳が幸せ。指揮を終えた滝先生がお辞儀をした時は、劇中のギャラリーにつられて拍手しそうになった。

「頑張る」って何ですか?

これは黄前久美子の後輩としてユーフォ二アムパートに加わた久石奏の言葉である。「自分より下手な先輩」と見なしていた中川夏紀を差し置いてオーディションに合格しないよう、わざと下手に演奏しようと目論むも、その企みは頓挫してしまう。

本作の主要なテーマの一つが「先輩よりも上手い後輩の存在」。久美子にとっては中学時代と1年生の時点で夏紀と接する中で通った道でもあるし、麗奈と香織のオーディションの結果を見るに、本作における回答はすでに用意されている。

「努力しても無駄」というのはニヒリズムだが、ニーチェ流に言えば「努力しても無駄だから何もしない」が受動的ニヒリズムで、「努力しても無駄かもしれないけど努力する」が能動的ニヒリズムである。久美子の姿勢は無意味さを前提としつつ、それを克服しようとする能動的ニヒリズムだった。だから、久美子は努力することの無意味さをまくし立てた奏に対してこう返答する。

「オーディション、本気でやってみなよ。少なくとも私と夏紀先輩は、必ず奏ちゃんのこと守るから」

久美子の本音の波状攻撃のトドメとしてのこの言葉を前にして、敵を作らぬよう模範的な後輩として振る舞う面倒な後輩は陥落。奇しくも昨年、久美子が吹奏楽部に姿を見せなくなった田中あすか先輩を本音を吐露することで説得したことで培った経験が見事に実を結んだ。3人での口論になった場所は体育館裏と、これもまた一致。ここであすか先輩を陥落させた久美子の前では奏など恐るるに足らず。安心と実績の黄前相談所。このあたりの構成は、小説版とはだいぶ違う。

関西大会がダメ金で終わり、全国大会出場を逃すという苦い結末を迎えた終盤、奏は「悔しくて死にそう」と思いの丈を語る。もちろん中学時代の麗奈が、同じくダメ金で次の大会に進めず、悔しさを滲ませた台詞だが、一見対照的に見える奏と麗奈に同じく境遇で同じ発言をさせたのは印象深い。麗奈→久美子→奏の系譜がここに見える化を遂げた。

*1:IT系ベンチャー企業の社長のごとくろくろ回ししながら力説