疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社+α新書)

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社+α新書)

日本の食料自給率を実態より低いように見せかける農水省の欺瞞を暴露する本。

日本の自給率は40%ということだが、これはカロリーベースの自給率、つまり国民一人当たりの一日の国内生産カロリー÷国民一人当たりの一日の供給カロリーという式で弾き出される数値である。国内生産カロリーには廃棄されるなどして誰にも消費されないカロリーを含むため、実質的な自給率は60%を超えるだろうというのが著者の見解である。そしてカロリーベースの自給率を発表しているのは日本だけ。

他に著者は日本の農業の実力を強調している。タイトル通り、農業生産額が826億ドル(約8兆円)で世界5位(中国、アメリカ、インド、ブラジルに次ぎ6位のフランスより上)、面積当たりの生産性が右肩上がりになっている、7%の優良農家が全体の6割の農作物を生産している、食料の輸入依存度は意外と低い、ネギの生産量は世界一などといったのはその具体例である。

こうした農業における強みを持ちながら、農水省はなぜ自給率を低く見せかけるのか。この本では省益や天下り団体の保護のため、より多くの予算を得るために危機感を煽るためだと指摘されている。そして農水省は毎年1兆円余りを農家に補助金をばら撒いて(もとい、どぶに捨てて)いる。これに民主党の農家の個別補償が加わることを、著者は痛烈に批判する。

そして著者は少子高齢化、人口減による市場縮小を踏まえ、日本農業の成長案として、
1.民間レンタル農園整備(PFI方式を含む)
2.農家による作物別全国組合の設立
3.科学技術に立脚した農業ビジネス振興
4.輸出の促進
5.検疫体制の強化
6.若手農家の海外研修制度

といったものを挙げている。先日の横浜でのAPECで話し合われたTPP(環太平洋パートナーシップ)に向けた取り組みが注目を受けている。著者によると、日本の農家にとっては補助金漬けよりも、自由貿易を踏まえた上での生産性向上を望んでいるとのことなので、参加できれば日本にとって追い風となるだろう。私はTPP参加には疑問的だが。

全体的に素晴らしい内容だが、所々かなり感情的なのが残念である。あと、農水省民主党の言い分も聞いてみたいと思う。