疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

中国経済の正体


成長著しく、世界同時不況も最速で脱却した中国経済を国内外の視点から幅広く紐解いた本。

中国が社会主義を標榜しながらも市場原理を導入しているが、これが同国の経済にどのような影響を与えているか。土地が基本的に国有のため、政策立案から執行までのスピードが迅速で公共投資で大きな効果が期待できる。内需主導で毎年10%前後のGDP成長率という驚異的な数字を叩き出す。2010年正月の個人消費は前年の同期に比べ17%も伸びている。

その個人消費を支えるのは中産階級(年収7500~25000ドル)や富裕層(25000ドル~)の増加。中産階級は06年時点で3500万人で、17年には1億人を突破すると予測される。こうした動きの中で、日本企業は従来の自動車、家電市場に加え、スマートグリッドバイオマスなどのクリーンエネルギー産業や上下水道の整備などの水ビジネスといった分野に進出することが期待される。

と、成長という名の光の強い中国経済だが、光が明るければ明るいほど陰も濃くなる。目下には日本やアメリカとのカルチャーギャップ、軍拡、東シナ海の資源権益争い、胡散臭い経済統計の数値といった問題が控えている。さらに中長期的にはチベットウイグルなどの民族問題、経済格差、地下経済(ヤミ金融、人身売買など)の拡大、一人っ子世代の高齢化など、爆弾をいくつも抱えた状況と言える。

長期的に見ると、今後、世界は政治的にも経済的にも長期的にアメリカ、中国の二極化が進むとされる。まだアメリカのほうが優位だが、中国がアメリカ国債を約900億ドル(日本は約800億ドル)保有しているなどの状況を考えると、米中の関係は台頭に近付いていることがわかる。

著者は日本としては、中国とある程度の距離を置きつつ、インドやASEAN諸国などとの関係を強化し、チャイナリスクを分散するのが良いと著者は主張する現在の中国の経済成長は、高度経済成長期の日本と類似する点もある。当時の日本が「世界で最も成功した社会主義国」と呼ばれ、自動車など工業製品中心、内需主導で年10%前後のGDP成長を遂げるあたりなどそうだと思う。中国経済を知る上では有力な一冊。