疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

とらドラ!

2016/8/21、加筆修正。

濃厚すぎる青春


本作は迂闊に手を出すと火傷するライトノベルである。読むだけで笑いや感動、はにかむような小恥ずかしさなど、いろいろと複雑な感情が喚起される。大河の不器用ながらの告白シーンには勇気をもらった。
地の文はお茶らけているようで意外と丁寧。でも、登場人物の言動の一つ一つに説得力がある。

読んでいて緊張感があったのは、大河と竜児の仲は次第に周囲公認になっていく中で、二人が自分の好意に気づくのに時間がかかっていること。二人の関係は互いに思いを寄せる相手(大河は北村に、竜児は実乃梨に)を応援する協定関係から始まるが、微妙な距離感が続く。3巻での大河の「竜児は私のだーっ!」発言や、7巻で亜美の二人の関係の不自然さ(と、自分を輪の中に入れてほしいという願望)を言い当てた発言を通じても二人は自分たちの本心にまだ気付かない様子。

というわけで、気になるキャラは川嶋亜美である。最初は厭味なキャラだな、という印象だったが、後々の展開を視野に入れると、かなりキャラ描写が上手く、魅力を余すことなく引き出せていると思った。本作を通じて一貫して注目したのは、「誰もがみな悩んでいる」ということだが、みんなが器用に生きているように見えて、実は悩んで試行錯誤しながら生きていることに気付かなかった亜美の悩みには大いに共感できた。今思えば、初っ端はまず好きになるようなキャラではなかったのに、彼女の生き方というか、不器用な在り方に後になってから惹かれるようになるとは思ってもみなかった。優等生というイメージがあった竜児が実乃梨と大河父を巡って喧嘩して後悔するという、人間臭い一面を見せたときに彼女が竜児を励ました際の言葉が印象的だった。

亜美が予想していた通り、後に大河が自分の気持ちに気付く。そして大河と実乃梨はそれでもなお、互いの友情を貫こうとするが… 何度読んでも感動的だった。この作品における亜美の立ち位置を改めて確認。自分自身は彼女ほど裏表はないが、自分の対人スタイルと通じる部分があると思った。一方的に甘える(甘えられる)ことや、誤魔化しを嫌うあたり、共鳴する部分がある。

ストーリー関係やキャラクターの濃やかさで定評のある本作だが、その性格は終盤により顕著に表れている。7巻で大河が自分の思いにようやく気付いた後、冬の夜中に薄着で外に出て号泣するシーンは圧巻だし、その後は修学旅行での亜美と実乃梨の取っ組み合いの大げんかに代表されるような、自分の意図しなかった方向に物事が進んでいってしまう展開も緊張感があって目が離せない。なんともどかしく、遣る瀬無い雰囲気であることか。だからこそ、「望んだものは手に入らない」というジンクスを乗り越えた大河に、「生まれてこなければ良かった」という卑屈さを埋めることができた竜児、そして紆余曲折の後に思い思いの道を踏み出そうとする面々の姿に感動を覚えた。