巧詐不如拙誠
タイトルの「巧詐不如拙誠(巧詐は拙誠に如かず)」とは中国戦国時代の古典『韓非子』説林篇の言葉で、「巧みに人を欺くやり方は、拙くとも誠実なやり方に及ばない」という意味合いである。これは私が座右の銘にしている言葉だが、これは創作の世界でも当てはまることだと思う。
と言っても、本項では「巧詐不如拙誠」という言葉を、本来のニュアンスとは少々異なる文脈で用いる。そういうわけで、本題に入る前に少し述べておくと、本項での「巧詐」とは「一見上手く作っているが、製作者の打算やわざとらしさが見え隠れするやり方」のことで、「拙誠」とは「稚拙な点もあるが、製作者の誠意が伝わり好感の持てるやり方」のことである。
メインカルチャー、サブカルチャー作品をひっくるめ、どういう表現が嫌いかと問われれば、私は真っ先に「わざとらしさを感じるもの」と答える。その理由としては、これまでの人生で世の中の欺瞞や不誠実さに幾度も直面し、落胆してきたことがあるし、製作者の術中にむざむざと嵌ってたまるかという自尊心が働くこともある。思えば私は嘘臭さに対する嗅覚だけは敏感なようで、サンタクロースの存在は小学1年生の時点で信じなくなっていた。小学校を卒業するまでは、プレゼント目当てで信じている振りをし続けてきたが。このように、私が人前で自分をわざとらしく誤魔化し続けてきたのは紛れもない事実である。わざとらしさに対する不快感の正体も、結局のところ同属嫌悪なのかもしれない。
私が「巧詐」を感じる代表的な作品といえば「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下、「あの花」)である。
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終盤で花火を打ち上げようというあたりから、段々とわざとらしさを感じるようになった。ラストのかくれんぼで皆が泣き叫ぶシーンでは完全に白けてしまって、完全に置いてけぼりといった感じ。脚本*2の岡田麿里のせいかな…?何はともあれ、終盤の一連の流れで、否定しがたい「こう作っておけば泣くだろう?泣いてみろや」という製作者の意図が頭から離れなかったのは確かである。
わざとらしさは「Angel Beats!」の終盤でも感じた。特に最終話の卒業式や、心臓移植の件から。
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逆に「拙誠」を感じるのは野村美月『卓球場』シリーズ。
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だが、だからこそか、友情の温かみを強く感じることをできるのが、この作品である。主人公たちが突如行方不明になった親友を探しに行くシーンにしろ、特に事件が起こるわけでもない日常のシーンにしろ、皆が互いをとても大事にしていることが伝わってくる内容であった。最後にとある事情から、大事な友人との記憶を全て消すことになったシーンには込み上げてくるものがあった。
余談ではあるが、この作品と較べてみれば、今や『"文学少女"』シリーズや『ヒカルが地球にいたころ』シリーズなどで有名な野村美月の、作家としての成長に端倪すべからざるものがあることが一目瞭然となる。悲しいことで知られる「ドナドナ」の歌詞を独自に解釈するシーンなどがその典型例。
どうも私はこの手の不器用な人が慣れないながらも一生懸命に作った(ように感じられる)作品に弱いよう。アニメの『もしドラ』もかなりベタなストーリーだったけど、なぜだかかなり感動したし。
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