労働法入門
- 作者: 水町勇一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/09/22
- メディア: 新書
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労働基準法、労働組合法等日本の労働に関する法律の規定、特色、背景について解説した入門書。入門と銘打ってあるだけ、全体的にわかりやすい内容だった。マクドナルドの「名ばかり管理職」問題のような新しい問題にも触れていて、アップ・トゥ・デートな話題も提供している。
まず気になったのは日本の労働法の功罪について。著者は日本の労働関係について、終身雇用を前提とする日本の会社の共同体的性格や、賃金や労働時間から賞罰といったあらゆる労働条件を就業規則に規定していることに言及した上でこう述べる。
このように、日本の労働法は、他の先進諸国の労働法に比べて、当事者間の長期的な信頼関係を重視するという特徴をもっている。これは、一方では、人間関係を大切にし、日本企業の国際的競争力を支える源泉になってきたという点で、日本の労働法の長所ともいえる点である。しかし他方で、そこには、メンバーシップをもたない者を差別したり、組織の論理を重視するあまり個人が組織のなかに埋没してしまうという危険が潜んでいる。非正社員の待遇をめぐる格差問題や、正社員の過重労働による過労死やメンタルヘルス問題は、この企業共同体に内在する危険が顕在化した例である。 同書48頁
まさにその通りだと思った。身内(正社員)は厳しい労働に従事する代わりに経営者から手厚い保護を受けるが、それ以外の非正社員は「気ままな派遣社員、フリーター」という印象を持たれてきた。この構図は高度経済成長期のような好況時には著者の述べたとおり上手く機能してきた。だが、不況を迎えれば状況は一変する。社員に劣悪な条件下での長時間労働を強いるブラック企業が問題になる一方で、一度就職活動に失敗すれば正社員への道が閉ざされるも同然という就労の歪さは日本型雇用制度*1が不完全な形で残存して未だに尾を引いているためだと思う。
その他勉強になったのは解雇権濫用法理、年次有給休暇の時季変更権といった日本の労働法に特徴的な規定について。
解雇権濫用法理は労働契約法第16条*2に規定されている。合理性や相当性のない解雇を無効とする判例の積み重ねを2008年施行の労働契約法に盛り込むという形になった。法律上このように明文化されているものの、実際に適用された事例は意外と少ないというのは知らなかった。
年次有給休暇の時季変更権は労働基準法第39条第4項*3に規定されている。フランスではあらかじめ年休カレンダーを作って確実に年休をとらせることが会社に義務付けられているが、日本では割と臨機応変というか行き当たりばったりと言うべきか。
著者は日本の労働環境の問題に対して、国家と個人の間に位置する「集団(労組とはまた違う)」が両者の橋渡し役となり、絶対的労働時間の制限、年休カレンダーの作成義務化、日本人にあまり知られていない労働審判手続の普及を通じて中長期的に個人にも会社にも社会(国家)にも利益をもたらすことを提言する。絶対的労働時間の制限について以外は意識していなかったので勉強になった。
労働基準法をはじめとした労働法についての初学者にはうってつけの本なので、読んでみるといいよ!激動する労働環境に対して労働者個々人がどうすべきかを考える一助になるだろう。