疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

杉原千畝 スギハラチウネ

新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

というわけで、今年最初の記事は、前々から気になっていた映画『杉原千畝 スギハラチウネ』を見たのでその感想ということで。

http://www.sugihara-chiune.jp/www.sugihara-chiune.jp

ペルソナ・ノン・グラータ

本作は新潮選書から出ている白石仁章『諜報の天才 杉原千畝』に基づいている。そのため、杉原千畝を単なる人道主義者としてではなく、ソ連から「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として警戒されるほどの敏腕諜報官としてのキャリアが、在カウナス領事としてリトアニアに赴任中に「命のヴィザ」を発給して2000人以上のユダヤ人難民をナチス・ドイツソ連から救うことにつながったことを描いている。というわけで、史実に基づいた実直なドキュメンタリー映画として、見ることにした。

諜報の天才 杉原千畝 (新潮選書)

諜報の天才 杉原千畝 (新潮選書)

独ソ戦が目前に迫る中、オランダの在リトアニア領事代理であり家電メーカー・フィリップスの現地の支社長であるズヴァルテンディクの協力もあり、日本を経由してカリブ海のオランダ領キュラソーなどを目的地するヴィザだったことや、リトアニアソ連に併合されることが決定し、退去の直前までホテルや駅でもヴィザを発給し続けたことまで再現していたあたりに、作り手の本気を感じた。白石氏の著作には言及はなかったが、杉原が正教会に通っているシーンがあったのも印象深い。その後、自らの右腕ともいえるポーランド人のペシェに発給を託したこと、「あなたは最低の外交官だが、最高の友人だ」というペシェの別れ際の台詞も記憶に新しい。ペシェ以外にも、ポーランド人の配役が多かった。

ユダヤ人難民を乗せた天草丸を、ウラジオストクから敦賀港に向かえるよう計らった在ウラジオストク総領事代理の根井三郎やJTB職員の大迫辰雄の名も記憶に留めておきたい。杉原がソ連との北満洲鉄道譲渡のための交渉に利用しようとした「ソ連が満鉄の新型車両を盗み出そうとしている」という情報を知ってソ連兵を抹殺した関東軍将校の南川欽吾や、杉原が東欧にいた頃の上司であるヒトラーびいきのドイツ大使・大島浩のような、杉原(の情報)を活かしきれない人が多いということか。

敦賀港が見えてきたとき、ユダヤ人たちが後のイスラエル国歌となった「ハティクヴァ(希望)」を歌い出したシーンが本作のハイライトだった。杉原はビザを発給するときに、この逃亡が苦難を伴うものであるとユダヤ人たちに声をかけているが、それでも生きて未来へ希望をつなごうとする確かな意志を感じた。


イスラエル国歌 日本語翻訳