放課後のプレアデス
まーた長らく文章化するのを怠ってしまったが、きちんと思うところは語っていきたい。今回は2015年のアニメの中でも特に気に入った作品を。未視聴者は置いてけぼりの記事だろうけど。
宇宙へのロマン
まず私が本作に引き込まれたきっかけは、天文学の要素をふんだんに取り入れて宇宙を描いた、壮大かつ透明感のある世界観である。プレアデス星人こと会長に選ばれた5人の少女が宇宙を股にかけて、彼の宇宙船の「エンジンの欠片」を集める途上で、土星のリングに接近したり、ベテルギウスの超新星爆発を目撃したり、太陽系の外で新たな恒星を発見したり、というストーリーは童心に帰る思いがして、ワクワクするものだった。何故か欠片集めを邪魔する「角マント」の妨害などの困難に直面しつつも、励まし合って乗り越え、友情を深めていく5人の姿には心打たれるものがあった。
キャラの造形を見てみると「プリキュア」シリーズとか「魔法少女☆まどかマギカ」とか、そのあたりを意識した魔法少女もののようでもあるが、本作に登場するのは「魔法少女」ではなく「魔法使い」だし。すばるたちが魔法使いに変身したのは、皆に夢や希望をもたらすとかいう、大仰な目的によるものではなく、あくまでも「もしかしたらそうなっていたかもしれない」という「可能性」に基づいて選ばれた結果によるものだから。本作においてはこの「可能性」が主要なテーマとなっている。
幼なじみであるあおいとの間に、自分は足手まといではなかったのかという蟠りを残したままだったすばる、小さい頃からすばるを守ってきたけど、それは自分の独善だったのではないかと思っているあおい、幼い頃に自分の代わりに兄が叱られたことで、自分のわがままで人を傷付けたくないと思っていたいつき、何でも器用にこなす一方で、終わらせることが怖いためにやることなすことが中途半端になってしまうひかる、幸せを手に入れてもいつかは一人になってしまうと思っていたななこ、と舞台を宇宙とする壮大なものであることに比べれば、彼女たちの事情は日常的にありがちな内容だが、可能性はちょっとした状況の変化や選択によって分岐し、それが積もり積もって大きな違いを生む、ということなのだと思う。
宇宙がテーマなのは、本作のスポンサーのSUBARU(富士重工業)が宇宙開発事業にも参画していることによるものだろうし、本作は多くは語らず、といった作風だが、これはやはり宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を意識しているのだろう。やはり賢治が作詞作曲を手がけた「星めぐりの歌」をすばるとあおいが歌うシーンがある。
わたしよわたしになれ
先に挙げたが、本作の主題の一つは「可能性」である。
終盤の展開ですばるはみなとから「心のどこかで君は、このまま欠片集めが終わらなければいいと、本当はそう願ってるんじゃないのか? それが、君自身への呪いだ」と指摘を受ける。会長ことプレアデス星人・エルナトも、選択しないことで滅びを先延ばししている、とみなとに評されるが 本作の提示する可能性は、ただ与えられるものではなく、数ある選択肢の中から選択することを前提とする可能性である、と思う。だから「渚にて」すばるたち5人は、このまま欠片集めが終わらなければいい、という呪いを断ち切って「わたしは、わたしになる」ことを選択した。その前にエルナトから「どんな君たちにもなれる」と言われていたにもかかわらず、今の自分たちとさほど変わらない女の子になることを選んだ、のである。主題歌「stella-rium」の歌詞通りの展開になったのが本当に素晴らしい。それにしても欠片集めが終わらなければいい、と思っていたのは本作を視聴する側である私自身にも当てはまるのだから。
それはともかく、今の自分とほぼ同じ自分になることを選択した彼女たちは、新しい世界で再び出会い、星を見に集まる。本作はここで終幕を迎えるが、彼女たちならきっと欠片集めをしていた頃と変わらない、あるいはそれ以上の友情を築いてくれるはず、と確信できるのは、これまでの描写の積み重ねがあるからだろう。と、素直に思えるアニメだったのがこの「放課後のプレアデス」だった。
その他本作にまつわる取り留めのないもろもろ
・菅浩江氏によるノベライズはみなとの視点から本作のストーリーを追う。7年前のエルナトとの邂逅に始まり、アニメを補完するSF的なバックボーン、長く続く入院生活に希望を求めるも、その後絶望していく過程、すばるによる「私がみなと君を幸せにする!」「絶対する!今、する!」という猛烈なアプローチの詳細な展開、登場人物たちの名前の由来などが語られる、ファン必携の著作となっている。
- 作者: 菅浩江:著 GAINAX:原作
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2015/08/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (4件) を見る
・TVアニメ版の原型となった2011年2月に配信されたyoutube版は今も健在なので、まずここから入るのもいいのでは。
・後で知ったことだが、本作の監督の佐伯昭志氏は「ストライクウィッチーズ」の1期と2期の6話*1で監督を務めているし、音楽担当の浜口史郎氏は「ガールズ&パンツァー」でも音楽を担当している。引き込まれるのも時間の問題だったのかもしれない。
・今はアカウントを消してしまったが、Twitterで語るアニメの感想のうち8,9割は貶めるか嘲笑するか駄目出しするか、という口の悪い辛口アニメ評論家だったかつてのフォロワーが本作を「面白かった!」と素直に評価していたことも、私の中では非常に記憶に新しい。
・第47回星雲賞に本作がガルパン等と並んでノミネートされたのも嬉しい。
2016年 第47回星雲賞