疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

終末のイゼッタ

大晦日で宣言した約束は果たす。まずは終末のイゼッタについて。

izetta.jp

ミリタリーと魔法

魔法や魔女が登場する第二次世界大戦期のヨーロッパに準えた架空の世界が舞台ということで「ストライクウィッチーズ」に通じる雰囲気があり、主役であるフィーネとイゼッタの百合(直球)を見ることができるという風の噂を聞いて見ることにしたが、なかなか面白かった。視聴中に脚本の吉野弘幸氏がヨーロッパをモデルとした独自の世界を舞台にした萌えミリアニメ「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」でも脚本を担当し、キャラクターデザインのBUNBUN氏は戦争+百合ラノベの『ニーナとうさぎと魔法の戦車』のイラストを担当していることから、生まれるべくして生まれた作品と言えるかもしれない。

本作では、1939年9月1日*1ゲルマニア帝国が隣国リヴォニアに侵攻を開始する。ゲルマニアの魔の手が伸びる前にエイルシュタット*2公女のフィーネは隣国ヴェストリアに会談に向かう途中、ゲルマニア将兵に襲撃されるも、そこで対戦車ライフルを魔女の箒のように操り戦う「白き魔女」イゼッタに救われる。以後イゼッタはフィーネおよびエイルシュタット軍に加わり、魔法の力を引っ提げてゲルマニア軍の戦車や最新鋭の空母の撃破に一役買うなど八面六臂の活躍を見せるが…。

面白いと思ったのは、本作における魔女の位置づけである。イゼッタは魔法で対戦車ライフルや馬上槍、爆弾を操って戦車や軍艦、航空機といった兵器を撃破するなど、窮地のエイルシュタットの救世主として英雄視される。そのおかげで各国や名家のVIPが集うパーティーに招待されたり、アメコミ風のイゼッタのイラストが描かれて人気を博す。このあたり、原子爆弾などとは違う生きたエイルシュタットの抑止力として扱われているように思った。

最後の魔女

作品も佳境の後半に入ると、イゼッタやフィーネの活躍の裏で魔女狩りや白き魔女ゾフィーの伝説や、ゲルマニアでのクローン生成の技術の研究ついても明かされ、作中に不穏な空気も漂う。かつて魔女狩りに遭って処刑された記憶を持ったゾフィーのクローンが作られたのだ。

ゾフィーの二人の白き魔女、イゼッタとゾフィーの明暗を分けたのは、苦渋の末に自分と国とを天秤にかけて国を選んだ主君を信じたか否かであろう。ゾフィーはエイルシュタットの王子に見初められて力を貸すも、魔女狩りの風潮やエイルシュタット王妃の命もあり、ジークハルトの先祖らによって異端審問官に引き渡されて処刑されたことからエイルシュタットを激しく憎悪した。ゾフィーにイゼッタの祖母やフィーネのような理解者がいればイゼッタのようになっていたかもしれないし、イゼッタも生まれた時代と境遇が違えばゾフィーと同じ末路をたどったかもしれないと考えるともどかしいが。

一方でイゼッタは一度ゲルマニアの捕虜となり、解放された後も「姫様に何も返せてない」と言ったり、弱気になるフィーネを呼び捨てにして叱咤激励したりと、ここに二人が積み上げてきた信頼関係が存在していたことを疑う余地はない。エイルシュタット大公としてのフィーネの思いに寄り添っていたことはこの台詞に凝縮されている。

「みんなの命を預かる人はたった一人にこだわっちゃ駄目なんだって、私の姫様はそれを知っている人です。だから私の全部をあげられる」12話より

21世紀に入ってから「あなたのいない世界に生きる意味はない」「世界を敵に回してもあなたを守る」的なセカイ系作品が多いと感じていただけになかなか鋭く自分の心情に突き刺さった。どちらかと言えば、大事な人と世界を天秤にかけたとき、前者を選択する話の方が好きな私だが、本作は後者を選んでしまうような人だからこそ大切に思える人であることが強調されおり、イゼッタの考え方もなかなか捨てがたい。

フィーネの側は抑止力としてのイゼッタについて、戦争当事諸国の首脳会談の中で涙を浮かべつつ裂帛の勢いでゲルマニアハイゼンベルクに対して弁舌を振るう。

「イゼッタは最後の魔女となる。魔法はこの世界から消え失せ、おとぎ話の中に去るでしょう。忌まわしき爆弾や、禍々しき兵器たちと共に!それでもなお、ゲルマニア帝国は世界の覇者たるおつもりか!お答え願おう!」12話より

この言明通り、イゼッタはゾフィーを討ち果たすと同時に、地中に蓄えられたレイラインの魔力を使い果たす。当の本人も魔力を失って史上最後の魔女となった。彼女は魔法や魔女が存在した時代の終わりを見届けた「終末のイゼッタ」となったのだ。

余談

フィーネとイゼッタの関係は百合と言っても差し支えはないが、属性は多岐にわたる。二人は幼なじみ同士であり、主従関係であり、一般人と魔女(人間と人外)である。個人的には11話と12話のサブタイトルがそれぞれ「フィーネ」「イゼッタ」であるのが、本作の主軸が二人の物語であることを再確認させるものであり、最高に百合だと思った。幼い頃からの親友同士であり金髪の君主と赤毛の従者、というあたりはもしかしたら『銀河英雄伝説』のラインハルトとキルヒアイスの間柄を意識したものかもしれない。というわけで、主従百合には特に注目していなかったが、本作を以て見直すことになった。

最後に。2016年秋期アニメに関しては「響け!ユーフォニアム2」「ブレイブウィッチーズ」という自分の中で昨年二強が揃っていたので、円盤マラソンは断念するが、いつかBDを揃えたい傑作アニメだった。

*1:この日は史実でドイツ軍がポーランド侵攻を開始した日!

*2:エイルシュタット公国は現実世界でいうリヒテンシュタイン公国と、イタリアとオーストリアにまたがるチロル地方にあたる