疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2017年11月の読書

11月の読書メーター
読んだ本の数:7
読んだページ数:2150
ナイス数:83


忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)感想
アーサー王死後のイングランドを舞台としたファンタジー作品。旅立った息子を探しに行く老夫婦と、彼らが旅先で出会った人々を中心に描く。ブリトン人とサクソン人の抗争といったアーサー王伝説にも通じるファクターを背景に、霧がかかったような茫洋とした世界が眼前に広がる大人のファンタジーという印象。老騎士となったガウェインや倒されることで人々の記憶が呼び戻されるという雌竜の存在が印象深い。これはイングランドの人々が失われた記憶を取り戻すという物語であると定義付けられるのではないか。
読了日:11月05日 著者:カズオ イシグロ,Kazuo Ishiguro
聖書の読み方 (岩波新書)聖書の読み方 (岩波新書)感想
西洋思想史の教授として大学で教鞭を執る著者による聖書の読み方の解説書。進化論をはじめとした近代科学の知見と矛盾する記述や、時系列的にも順不同でどこか権威主義的、といったイメージがある聖書を読み解くにあたっての留意点を主に若い読者向けに平易に解説している。聖書を内側と外側からでは全く見え方が違う電車に例えたり、真の知識は後からやって来るといった着眼点は読むにあたって参考になりそう。
読了日:11月10日 著者:大貫 隆
儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)感想
読書を愛する良家の令嬢が集うバベルの会をつながりとして展開されるミステリーというよりはホラーとしての色彩が濃い連作短編。後味は決してよくはないが、気品を感じさせる文体から紡がれる後ろ暗い展開とヒヤヒヤさせられる構成(主に各話の終盤)に思わず読み入った。全体を通して江戸川乱歩的なブラックユーモアが根底にあるように感じた。
読了日:11月11日 著者:米澤 穂信
享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)感想
応仁・文明の乱に13年先立ち、関東公方足利成氏関東管領上杉憲忠を暗殺したことに端を発する享徳の乱について概説。享徳の乱が波及する形で応仁・文明の乱につながったというのが著者の説。享徳の乱に先行する関東における内乱である上杉禅秀の乱永享の乱も含め、幕府が関東管領関東公方を監視させるという体制の複雑さが室町時代の内乱の多さに連動しているように思った。足利義政が積極的に乱の鎮静化のため介入していたことが、先入観もあり、意外だった。彼を見直すきっかけになるかもしれない。
読了日:11月14日 著者:峰岸 純夫
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。12 (ガガガ文庫)やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。12 (ガガガ文庫)感想
かなり間が空いたけど、物語もいよいよ大詰めであることを思い起こさせる巻だった。11巻の刊行から2年近くの間隙を埋めるかのようにシリーズの内容を序盤から振り返る心遣いに感心。小町の高校受験といろはが熱心に進める卒業生のためのイベント・プロム。メイン三人の人間関係についての陽乃の指摘、どういう言葉が投げ掛けられるかはある程度予想がついたが、やはり鋭い言葉の刃だ。あとは最後まで物語の顛末を見届けるだけだ。
読了日:11月17日 著者:渡 航
東国武将たちの戦国史: 「軍事」的視点から読み解く人物と作戦東国武将たちの戦国史: 「軍事」的視点から読み解く人物と作戦感想
長尾景春の乱に始まり、川越夜戦、上杉謙信の関東攻め、豊臣秀吉による小田原の役など、関東地方における主要な戦役をクラウゼヴィッツ等の軍事学の知見を駆使して戦術・戦略の観点から読み解く。太田道灌長尾為景北条氏康といった面々がどのように戦いを勝利に導いたのかが興味深かった。
読了日:11月20日 著者:西股 総生
保守主義とは何か - 反フランス革命から現代日本まで (中公新書)保守主義とは何か - 反フランス革命から現代日本まで (中公新書)感想
フランス革命批判で知られるエドマンド・バーク以降の近代の「保守主義」を解説。現代では「保守主義」という単語が発言者によって含意が全く異なるバズワードになった感があるが、本来の保守主義は理性や抽象的理念を過信せず、家を完全に取り壊して更地にするような「革命」ではなく、家を部分的かつ漸進的にリフォームしていく「改革」を志すという極めて真っ当な思想であることがよくわかる。立憲民主党が唱える「保守」も本書で語るような保守思想であると思いたい。
読了日:11月23日 著者:宇野 重規

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