ウィンストン・チャーチル
何だかんだで毎年数本は実写映画(主に洋画)を鑑賞しに行ってる。
有事の人
本作「ウィンストン・チャーチル」はタイトル通り第二次世界大戦期にイギリスの首相を務めたチャーチルを主人公とする映画である。対枢軸国戦の失策により退陣に追い込まれたチェンバレン首相に代わってチャーチル海軍大臣が首相に就任、ドイツとの講和を訴える閣僚が優勢な中、諦めずに徹底抗戦の姿勢を貫き、ダンケルクの撤退戦*1の成功までを描いた一大歴史エンターテインメント。「ダンケルク」と見比べてみるのも一興か。
まず思ったのは、チェンバレン前首相やハリファックス外相のような講和派の方が常識的で、チャーチルのように妥協せず抗戦の姿勢を示す政治家の方が異端なんだろうな、ということ。本作のチャーチルは自分の言葉をきちんと文字化できなかったタイピストに癇癪を起こしたり、講和派の政治家に対しては狷介と言っていいほど片意地を見せたりと、性格に難のある政治家として描かれる。良く言えば型破り、悪く言えば気難しい嫌われ者、といったところで、必ずしも好意的に描かれているとは言いがたい。本作の最後でも触れられるけど、英雄的な指導者でありながら戦後は選挙で負けて首相の地位を追われるあたり、平時は厄介者で、有事を迎えて初めて真価を発揮するのがチャーチルという人の本質なのだろう。
カエサルと同時代の古代ローマの哲学者キケロの言葉を引用しようとしてその著書を持って来させようとしたあたりには彼なりの教養を感じたが。ノーベル文学賞受賞者だもんね。
あくまでドイツに対して抗戦の姿勢を崩さなかったチャーチルだが、内憂外患により一時は弱気に陥った。内では自分を無視してハリファックスら閣僚は水面下でイタリアのムッソリーニの仲介を通じてヒトラーとの和平交渉を進める、外ではアメリカのフランクリン・ルーズヴェルト大統領に協力を要請するも色よい返事はなく、フランス国内の拠点カレー基地を見捨てることを余儀なくされる、といった具合に。
そんな中で国王ジョージ6世*2やロンドン市内の地下鉄内で出会った市民に励ましによって戦う意志を取り戻す展開は熱かった。このあたり、ハリウッド映画らしいエンターテインメント性を強く感じた。テーマがテーマだけに、人によってはこのあたりの政治観が気になるかもしれないが、それを重く受け止めすぎなければ広く楽しめる作品であると思った。victoryを表すVサインを広めた人は違う。
全体を通して、なんだかんだで面白かった。主演のゲイリー・オールドマンの演技や特殊メイクの出来といった面でもここ数年で見た実写映画の中の白眉かも。これはBDがほしい。チャーチルがノーベル文学賞を受賞するきっかけになった『第二次世界大戦回顧録』も読んでみたい。
- 作者: ウィンストンチャーチル,Winston Churchill,毎日新聞社,毎日新聞=
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/07/01
- メディア: 文庫
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