2018年5月の読書
5月の読書メーター
読んだ本の数:18
読んだページ数:5283
ナイス数:35
南の島のティオ (文春文庫)の感想
ちょっと不思議な南国の島ののどかなスローライフ。何にも急き立てられることなく時を過ごせる雰囲気がよく出ていた。
読了日:05月01日 著者:池澤 夏樹
部活があぶない (講談社現代新書)の感想
本来スポーツなどを楽しむための部活動が勝利至上主義やしばき主義に毒され、規範に従うことを強要するツールになっていることを指摘している。読んでみてブラック企業の蔓延とも密接な関連があると思った。自分の経験論から体罰やしごきを肯定する教師、厳しい指導の方が我が子のためになると考える保護者、自校の宣伝のために部活動の実績を上げたい学校という三者の狭間で生徒が苦しんでいる現場には戦慄が走る。その中で青学陸上部の原監督のように楽しむことを掲げつつ実績を挙げる指導者がいるのは一縷の光明か。
読了日:05月05日 著者:島沢 優子
科挙―中国の試験地獄 (中公新書 (15))の感想
官吏登用制度としての科挙の実態と理念、社会への影響を中国史の碩学が概説する。門閥貴族による政治の打破のために生み出された制度、宋代に最終試験として皇帝自らが面接官となる殿試を行うようになったのも合格者と試験官たる先輩官僚との癒着を防ぎ、官吏はすべて皇帝に属するという意識を持たせる狙いがあった。主に実態と理念のギャップについての記述が興味深かった。
読了日:05月06日 著者:宮崎 市定
漢字―生い立ちとその背景 (岩波新書)の感想
漢字の源流である甲骨文字や金石文から漢字の字源を解き明かしていく。祭祀や占卜、狩猟はもちろんのこと、古代中国の社会も朧気ながら見えてくる快著である。そういえば「政」の訓読みは「まつりごと」だ。
読了日:05月08日 著者:白川 静
私の百合はお仕事です! 3 (百合姫コミックス)の感想
表紙では限界感情の籠った眼光を湛え、サブタイトルにも昇格を果たした"間宮果乃子"という超絶地雷物件、薄ら寒さしか感じられない。多分小日向未来とかと同じ人種だと思う。
読了日:05月15日 著者:未幡
新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)の感想
多くのファンタジー作品の祖となった一大傑作の第一巻。壮大かつ詩的な世界観の下、魔法使いガンダルフに説得された養父から魔法の指輪の破棄を託されたフロド一行の冒険の始まりを描く。オックスフォード大学の言語学の教授でもあった作者の意向で、固有名詞を含む作中の用語の多くが邦語訳されているのが特徴。かと言って「つらぬき丸」「ゴクリ」「馳夫」には慣れるのに少し時間がかかったが。
読了日:05月16日 著者:J.R.R. トールキン
新版 指輪物語〈2〉旅の仲間 上2 (評論社文庫)の感想
フロドらホビットの他、エルフやドワーフといったファンタジーでおなじみの種族が登場し、より世界が広がっていく感じがいい。読みながら魔法の指輪という着想はソロモン王伝説の影響を受けているように思った。また、争いや災いを招く指輪を破棄するという筋書きは、アーサー王伝説におけるギャラハッド卿やパーシヴァル卿の聖杯探索を反転させたものだろう。
読了日:05月17日 著者:J.R.R. トールキン
新版 指輪物語〈3〉旅の仲間 下1 (評論社文庫)の感想
ようやく旅の仲間が揃った。ちょっかい好きの狂言回しのポジションと思いきや重要な場面で助言したりと活躍を見せるガンダルフがいいキャラしている。どこかアーサー王伝説のマーリンを彷彿とさせるな。
読了日:05月18日 著者:J.R.R. トールキン
新版 指輪物語〈4〉旅の仲間 下2 (評論社文庫)の感想
フロド、危機に見舞われてエルフの奥方らの助力で難を逃れるも、一行は離散を余儀なくされる。指輪の魔力恐るべし。サムは頼れる相棒だ。
読了日:05月19日 著者:J.R.R. トールキン
聖書VS.世界史 (講談社現代新書)の感想
聖書の内容に基づいて歴史を叙述して世界の成り立ちを説明する「普遍史」の歴史を取り上げる。自分たちの歴史中国やエジプトといった長い歴史を持つ国の「古さ」を自分たちの歴史に組み込むという試みは、聖書の記述の鼎の軽重が問われる行為であり、試行錯誤を以て行われてきたという事実は興味深い。これら一連の行為は時には功を奏すも、次第に凋落するという歴史は勉強になった。
読了日:05月20日 著者:岡崎 勝世
天神 (集英社文庫)の感想
航空自衛隊の戦闘機パイロットという同じ目標を持つも、生い立ちや能力が大きく異なる陸と速という二人の若者の生き様を描いた小説。座学が苦手で乗り物酔いに悩まされるも、努力とチームの仲間に支えられた陸、片やエリートとして周囲から将来を嘱望されるも挫折を味わう速、両者の葛藤やその克服、彼らを取り巻く人々の魅力、と爽やかな印象のある作品だった。
読了日:05月22日 著者:小森 陽一
世界の名著―マキアヴェリからサルトルまで (中公新書 (16))の感想
タイトル通りマキアヴェリからサルトルまで、近世~現代までの思想史上重要な著作の概要を解説。孟子の思想に基づいて国や人民の存在を説き、皇帝独裁を批判した黄宗羲の『明夷待訪禄』をルソーの社会契約論に近い思想を説いたとして取り上げたのは画期的に思った。あと、まだ文化大革命が起こっていない1963年に上梓された本であるためか、毛沢東を解放者として高く評価されていたのが印象に残っている。
読了日:05月22日 著者:河野 健二
機動戦士ガンダムSEED DESTINY(1) 怒れる瞳 (角川スニーカー文庫)の感想
2004~05年放送の「機動戦士ガンダムSEED Destiny」の小説版。登場人物のモノローグを省略し、思考や心理の描写を最低限に抑えるという作風が毀誉褒貶を生んだアニメ版だが、小説版は主人公シン・アスカをはじめ、各々の考えや感情が手に取るようにわかる。そのため、アニメ版の唐突とも思える展開や補填されているような印象を受けた。シンのナイーブな苛立ちと、生真面目であるがゆえに現実に悩んだりシンとの接し方に手を焼いたりするアスランの関係がどこか切なくもある。
読了日:05月25日 著者:後藤 リウ
機動戦士ガンダムSEED DESTINY (2) さまよう眸 (角川スニーカー文庫)の感想
アニメを見ていた時にも思ったことだが、この時期のシンとアスランの関係が続けば後々の展開ももう少し好転していただろうに、と悔やまれる。シンの反抗期ぶりが少しだけ大人しくなったように感じられる。「"ザク"とは違うんだよ、"ザク"とはァッ!」という台詞が目を引くが、これはアニメでもあった初代オマージュ。ハイネの退場は早すぎた。
読了日:05月26日 著者:後藤 リウ
機動戦士ガンダムSEED DESTINY(3) すれ違う視線 (角川スニーカー文庫)の感想
アスランが止め処ない紛争を食い止めるため立ち上がったキラと接することで己の在り方に悩み始める。アニメでは悟ったような言動が多くて心底を窺い知れなかったキラといい、優柔不断さが目立って反抗的なシンを見放したという心象が残ったアスランといい、好意的な印象に乏しかった二人の心中が見えてきた点がよかった。そしてエクステンデッドのステラを巡って悲劇の幕が上がろうとしている…。
読了日:05月27日 著者:後藤 リウ
機動戦士ガンダムSEED DESTINY(4) 示される世界 (角川スニーカー文庫)の感想
ある意味この時期が本作の、あるいはシンにとっての全盛期だったように思う。シンはステラを喪った衝撃(インパルス)にキラのフリーダムを奇襲し、撃墜に成功するが、このあたりから雲行きが怪しくなる。シンが戦功によりフェイスに昇格してデスティニーガンダムを与えられて有頂天になった上に、スパイ疑惑によりアスランがミネルバからアークエンジェルに逃走してシンを諌められる者がいなくなってその方向が決定的になる。頼りになったとは言い難いが、アスランはある程度上官・先輩として機能していただけにやり切れない。
読了日:05月28日 著者:後藤 リウ
機動戦士ガンダムSEED DESTINY(5) 選ばれた未来 (角川スニーカー文庫)の感想
やはり展開はアニメ版とほぼ同じだがレイがデュランダルを撃ってメサイアが崩壊する中、自分を探しに来たシンが「生きろ、レイ!」「どんな命でも、生きられるのなら生きただろう」とかつてレイがステラに言った言葉を掛ける印象的なシーンが追加されている。本作ではアスランが比較的早い段階(ミネルバ脱走より前)でデスティニープランの概要を把握するので、プランの公表のインパクトとその中身についての印象は異なる。誰が本作の主人公かって?それは表紙を見ればわかるでしょう。
読了日:05月29日 著者:後藤 リウ
教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)の感想
読書や勉学によって人格の形成を図る学生文化である教養主義の形成と没落を著述する。大正~昭和初期の地方出身の旧制中学~高校を経て大学に入った所謂「エリート学生」の上昇志向や西洋の文化や学問への劣等感によって形成されたのが「教養主義」・新制高校の誕生を経て学生文化が変容したことで、次第に衰退していく過程まで克明に記されるあたりに、著者の抱く郷愁が感じられる一冊だった。
読了日:05月30日 著者:竹内 洋
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