疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

宇宙よりも遠い場所

Twitterのフォロワー各位の間でかなり評判がよかったこと、南極探検というテーマに惹かれて遅れ馳せながら見ることにした一作。

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高レベルでバランスの取れた青春アニメ

一言で言って「よりもい」こと「天国よりも遠い場所」は絶妙なアニメだった。本作を構成する諸々の要素が絶妙なバランスのもと、上手く噛み合っていたという印象を受けたが、それがどういう意味なのか縷々語っていきたい。

まずストーリー全般について。女子高生が資金を貯めて*1南極探検隊に参加を希望し、講習や訓練を経て探検に参加するという設定と手法が地に足がついていた。その中で玉木マリ(キマリ)ら4人が実際に南極という過酷な環境の最果ての地に赴くという厳しい現実に立ち向かう不安と高揚感、その中で育まれる4人の友情、実際に念願叶って南極の地を踏み締める喜び、といった感情の動きがヴィヴィッドに表現されていた。脚本担当が「ラブライブ!」等人気の高い青春ドラマ的なアニメを数多く受け持った実績のある花田十輝ということもあり、テンポがどうしても駆け足になりがちな1クールという制約の中で見事にまとまっていた。

キャラクターの描写も型にはまらない唯一性のあるものだった。特に小淵沢報瀬、顔がいい美少女にして芸人体質でとてもいいキャラだった。唯一性がある。序盤は彼女が何か喋り出す度に思わず笑ってしまった。ダメ押しで「いいですよね、面倒臭いの」「南極向きの性格ね」とか評されるあたりでその方向性が極まった。もちろんネタキャラだけには留まらず、

「意地張って馬鹿にされて嫌な思いして、それでも意地張ってきた!間違ってないから!気を遣うなって言うならはっきり言う!気にするなって言われて気にしない馬鹿にはなりたくない!『先に行け』って言われて先に行く薄情にはなりたくない!4人で行くって言ったのにあっさり諦める根性なしにはなりたくない!4人で行くの!この4人で!それが最優先だから!」6話より

と、3人に気を遣って1人でシンガポールに留まろうとした日向に向かって自らの思いの丈を高らかに述べている。報瀬には周囲から陰で「南極」と揶揄されてきた経歴があることを踏まえると感慨深い。意地っ張りなヒロイン、わたしは好きだ。母の思いを継いだ娘は強し。実際に4人で同時にジャンプして南極に足を踏み入れた報瀬の第一声が「ざまあみろ」で、4人どころか他の船員まで「ざまあみろ」と叫ばせるアクセントが本作らしい。

藤堂吟隊長をはじめ年長者勢と主役4人組との距離感が近すぎず遠すぎずと絶妙だったあたりも、本作の完成度の高さを物語っている。彼女らのすることにああしろこうしろ、と細々と説教臭い口出しはせず、かといって素っ気なく接するというわけでもなく4人にとっての道標としての役割を全うしていた。頼られれば惜しみなく力を貸すという方針がちょうどいい塩梅だった。隊長の

「結局、人なんて思い込みでしか行動できない。けど、思い込みだけが現実の理不尽を突破し、不可能を可能にし、自分を前に進める」12話より

という含蓄に富んだ言葉はまさに至言。何か事を成そうとするも不安を感じている人の背中を押してくれることだろう。

というわけで本作は時間を置いてもう一度通しで視聴することで、個々のシーンや台詞の含意を吟味してみたいアニメだった。余程のことがない限りすぐにもう一度視聴してみたいという気が起きにくい自分が言うから割と確かなんだろう。

P.S.「よりもい」が「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」ファンからの人気が高いのは、何度も見返したくなる味わい深い作風や4,7,8話の作画に神戸守監督が関わっているからだろうか…。

*1:結局報瀬が貯めた100万円は保留することになったが