疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

空飛ぶタイヤ

実写映画も面白そうなものはどんどん見ていきたい。

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大企業の悪弊と戦う社会派エンターテインメント

本作は2002年に横浜市瀬谷区で起こったトラックのタイヤ脱輪による死亡事故と、それを起点として芋蔓式に発覚した三菱自動車による組織ぐるみのリコール隠し事件という実話をモデルにした作品である。脱輪事故の責任を問われて窮地に追いやられるも、不屈の精神で再調査のためのネタを集める中小運送会社の社長・赤松と、リコールの隠蔽を組織ぐるみで行なうも、これをよしとしなかった名門自動車メーカーの社員・沢田、事故に疑問を持ち独自に事件の調査を進める同社の系列の銀行員である井崎の3人が各々の立場から事故の実態の揉み消しを図る組織の事なかれ主義に立ち向かう、というもの。池井戸潤原作小説の映画と聞いて前々から気になっていた。と言いつつも池井戸作品でまともに読んだ小説は『半沢直樹』シリーズくらい。実写ドラマはどれも一通り見たが。

本作の魅力は立場の弱いものが巨悪に挑むという筋書きはもちろんのこと、だが、役者の演技によるところも大きかった。特に赤松役のTOKIO長瀬智也、沢田役のディーン・フジオカの両氏の存在感は半端なかった。会社、そして社員とその家族の生活を守るために戦うという不退転の決意、不正が大手を振って罷り通る理不尽に対する憤り、ままならない状況を打開できない際の苦虫を噛み潰したような表情、こうした一連の演技から社会の一員として生きる者の意地と矜恃を垣間見た。

各々の立場から事件解決に奔走する赤松と沢田、井崎。秘密の社内会議の存在が明るみに出たことで解決の糸口が見えたことで事態は転換点を迎えるが、結局のところ彼らの関係は互いの立場を譲らない平行線で終わる。だが、それがかえって社会派エンターテインメントとしての軸のブレなさを確固たるものにしているように思った。下手に笑顔で握手して終幕にするよりはソリッドな感じが出ていてよかった。本作の元ネタたる実話では運送会社は廃業することになったが、実直に己の仕事に励む者にはせめて一抹の報いはあってもいいのではないかという願いのようなものが感じ取れる。

池井戸作品の真髄は社会派小説にありながら個々の登場人物が活き活きしていることにあると思う。各作品の主人公はさることながら、個人的には香川照之の怪演によって憎々しい宿敵であるものの一周回って魅力に映った『半沢直樹』シリーズの大和田常務、『ルーズヴェルト・ゲーム』において胡散臭い態度を振りまきつつもライバル会社に引き抜きあったと見せかけ、「敵を欺くにはまず味方から」の実践として埋伏の毒として細川社長への忠節をまっとうした江口洋介演じる笹井専務といった人物が強く印象に残っている。本作もその例に洩れず、といったところ。

年内から相次ぐ財務省をはじめとした省庁で相次いで発覚した組織ぐるみの公文書偽造日本大学アメフト部の悪質タックル事件など、組織の病理が招いた事件が巷間を駆け巡った中、本作が描いた不正発覚のドラマは一石を投じるものであるように思った。