疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

少女☆歌劇レヴュースタァライト

2018年夏期のアニメでは一番だった。

revuestarlight.com

HUGE EMOTION

最初は「少女革命ウテナ」「ユリ熊嵐」のような幾原邦彦的な抽象概念や隠喩の多いアニメかと思っていた*1が、最後まで見てみればそうでもなかったのが本作。エレベーターで下りた先の地下の舞台でレヴューを行う、身にまとう上掛けを落とされたら負け、という要素に「ウテナ」の黒薔薇編らしさがあったが。

まひる「ほら小さな光なんて 真昼になれば消えてしまうよ」と歌詞に巨大感情をギュギュっと凝縮してしまうあたり、尋常ならざるものを感じた。すでに「お寝坊してよ。遅刻してよ。また私にお世話焼かせてよ!」という台詞で収まる気配のないどうしようもない感情の片鱗を覗かせてはいたが。この感情に対して華恋「暖かい歌が好き、お日様みたいなダンスも好き、優しくて朗らかなお芝居も大好き」とのことだが、上手いだとか綺麗だとかいう評価ではなく「好き」を列挙しつつ、自分の感情を満載した言葉を投げたのは的確だった。「リズと青い鳥」に学んだか*2

舞台と観客

本作において異彩を放っていたと同時に確信を語っていたのがキリンである。現在地球の陸上に棲息する動物では最も高い視点を持つ動物だし、四本足で立つ姿と長い首は東京タワーに見えなくもない。文字通り首を長くして待っていたことだろう。

7話で本作における役割が明示されたのが大場なな。みんなを守りたい、として星翔祭の再演(=ループ)を繰り返すななの前でキリンはこう語る。

舞台少女がトップスタァになる瞬間。奇跡とキラメキの融合が起こす化学反応。永遠の輝き、一瞬の燃焼。誰にも予測できない運命の舞台。私はそれが見たいのです。
7話より

身も蓋もない観客根性の発露。「みんなを守る」と標榜して幾度となくスタァライトを再演を繰り返すななだったが、闖入者である華恋に敗れ去ってしまう。メタ視点から見れば、ななが敗けたのは、キリンが言うところの一瞬のキラメキや変化を拒絶するからだろう。だが、純那の彼女への態度を見るに、救いはあった。

いわゆるループものの作品でループを繰り返す理由は大抵の場合問題を解決するためだが、スタァライトのようにループすることそのものを目的として位置付ける作品は珍しいと思った。大場ななに思想が近いのは、ループすることで「ずっと遊んでいたかった」と言った「リトルバスターズ!」の宮沢謙吾だろう。

ななが再演を繰り返した第100回星翔祭だが、なぜ第100回なのか。少し考えてみたが、ちょうどいい数字があった。ちょうど100年前の1918年の帝国劇場で行われた本作の舞台のモデルである宝塚歌劇団の第1回東京公演が行われた年*3だった。華恋たちが星翔音楽学園99期生*4なのも、1919年の宝塚音楽学校の設立(つまり1期生の入学)に因むものだろう。劇団の創設と大学の設立の時期に5年の隔たりがあるので、順序が入れ替わるが。

約束タワー

本作において宝塚音楽学校というモチーフと並んでシンボリックなのが東京タワーの存在である。華恋とひかりの昔の約束の象徴として何度も登場する。今年は東京タワー竣工60周年。つまり還暦。ちなみに華恋とひかりの約束は12年前。約束から現在までの時間の5倍の時間をその場に佇んで 最後は 本作の最終回放送から2日後の9月30日にテレビ電波の発信を終えたというのもどこか スタァライトは東京タワー現役引退の花道*5だったのか。

12年前に2人が初めて見た、悲劇で終わるスタァライトを自分たちが演じる番になって東京タワーを舞台装置として横倒しにして2人の橋渡しとするなど力業によってハッピーエンドに向かわせようとする2人を見ながら、絶頂を迎えたテンションでこう熱弁する。

私は 途切れさせたくない。舞台を愛する観客にして、運命の舞台の主催者!舞台少女達の永遠の一瞬、迸るキラメキ!私はそれが見たいのです!そう、あなたと一緒に。わかります。
12話より

相変わらず自分の立場と願望を微塵も隠し立てしないメタ視点。

やっぱりこいつ俺らじゃない?この百合厨め。そしてこっち見んな

だが、演者には演劇を鑑賞する観客が必要だし、演者がいなければ鑑賞する側の観客も存在し得ない。そう考えると、両者は相互補完的な関係なんだな、と改めて思う。

アニメ放送に先駆けた演劇の方も 行ったことはないものの、本家宝塚の劇や歌舞伎は一度は鑑賞したいので…。

*1:本作の古川知宏監督はイクニ監督の愛弟子だもんね!

*2:さらに元をたどると「神無月の巫女」だろう

*3:http://kageki.hankyu.co.jp/fun/history1914.html

*4:宝塚歌劇団の設立自体は1914年なので、実際の99期生は2011年入学、2013年入団

*5:ラジオ電波の発信や東京スカイツリーの予備電波塔としての役目はまだ残っている