疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2018年10月の読書

10月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:3176
ナイス数:49

ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)

ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)感想
カエサルが自身のガリア遠征の功績を宣伝するために著した戦記。とはいえ、「カエサルは~」という三人称視点で書かれているためあまり露骨ではない。一口にガリア人といっても諸部族が割拠しており、一枚岩の勢力ではないことをはじめ、当時の軍制や人々の風習なども詳述されている。指揮官の単純な能力差だけでなく戦いは戦う前から決着がつくものだということがよくわかる。まともにカエサルと渡り合えたのは諸部族をまとめ上げてゲリラ戦法や焦土戦術で彼を苦しめたウェルキンゲトリクスぐらいか。
読了日:10月01日 著者:カエサル
青い春を数えて青い春を数えて感想
自分の好きな「響け!ユーフォニアム」の作者の作品ということもあり、贔屓目に見ずに評価しようとしたが、そうもいかない素晴らしい出来だった。部活動の枠に囚われない各々緩い繋がりのある連作短編集なので、読んでいて飽きが来ない。「白線と一歩」の唯奈と有紗の関係はどこか「のぞみぞ」を連想させるものだった。「片づけないで、"青春"の一言で!」という帯の惹句の意味を痛感する、一筋縄ではいかない本だ。
読了日:10月03日 著者:武田 綾乃
白い薔薇の淵まで (集英社文庫)白い薔薇の淵まで (集英社文庫)感想
成人女性がどこか蠱惑的な年下の女流作家に心身ともに溺れていくさまを描く恋愛小説。感情が暴発して喧嘩した後、再び互いに愛情を貪り合うことを繰り返す2人の姿がどこか破滅的で熱量が半端なかった。ここまで割り切った話は清々しさすら感じる。喜八郎さんは不憫。
読了日:10月07日 著者:中山 可穂
サイレントウィッチーズ スオムスいらん子中隊ReBOOT! (角川スニーカー文庫)サイレントウィッチーズ スオムスいらん子中隊ReBOOT! (角川スニーカー文庫)感想
ヤマグチノボル氏の遺志を引き継ぐ形で築地俊彦氏がリメイクした「いらん子中退」。方向性はほぼ同じだが、大幅に加筆修正されており、良くも悪くも尖っていた原典より読みやすくなっている。厭世的な皮肉屋のビューリング少尉の抱えている重荷と、ふとしたところで見せた智子への気遣いが印象的。
読了日:10月10日 著者:築地 俊彦
文字渦文字渦感想
本作の原点である中島敦『文字禍』も文字の精霊を語るものだが、本作はより魔術的で幻想的な世界観が繰り広げられる、比喩表現に留まらない「生きている文字」に迫る。始皇帝陵の兵馬俑に込められた漢字の意味の確定の過程や自然淘汰を描いた『微字』や、本来祭祀や事実の記述に用いられる漢字を闘わせるという背徳性を示した『闘字』が印象的。
読了日:10月13日 著者:円城 塔
バルチック艦隊―日本海海戦までの航跡 (中公新書)バルチック艦隊―日本海海戦までの航跡 (中公新書)感想
タイトルと副題通り、日露戦争日本海海戦に関する解説を主眼におくが、日露戦争に至るまでのピョートル大帝以降のロシア史の解説も充実している。ペテルブルクの都市計画やクリミア戦争後の南下政策や農奴解放、資本主義の発達といったトピックが日露戦争にどのように絡んだのかがよくわかった。
読了日:10月15日 著者:大江 志乃夫
花物語 上 (河出文庫 よ 9-1)花物語 上 (河出文庫 よ 9-1)感想
改めて読んで、あくまでも修身や道徳の教科書じみた話ではない、読み手であり主人公である少女に寄り添う物語ばかりであることを痛感する。その作風の他、少女を教え諭す立場の成人男性や同年代の少年がほぼ登場しないという点も『マリア様がみてる』などの作品に通じるものがあるというのには驚き。気軽に行ける旅行先として、執筆当時は日本領だった台湾が入っているあたりに時代を感じる。
読了日:10月16日 著者:吉屋 信子
Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ! !  (1) (カドカワコミックス・エース)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ! ! (1) (カドカワコミックス・エース)感想
ようやく劇場版に追いついてきた印象。エインズワース家に囚われた親友の美遊をイリヤたちはどう救うのか。士郎(仮)の動向にも注目。
読了日:10月18日 著者:ひろやま ひろし
花物語 下 (河出文庫 よ 9-2)花物語 下 (河出文庫 よ 9-2)感想
上巻を含めて、少女が大切な人と引越しや死によって離別するという結末を感傷的に描写した作品が多いのに、一抹の希望も感じさせるものが多かったというあたり、どこか心強い。
読了日:10月20日 著者:吉屋 信子
やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)感想
至るべくして至った展開としか言う他ない。記憶喪失の少女扮する七海燈子が彼女の境遇とオーバーラップしていたために堂に入った演技ができるというのは、理屈では理解できるが、実際そのシーンが来ると臨場感が筆舌に尽くしがたい。
読了日:10月23日 著者:仲谷 鳰
武士道の逆襲 (講談社現代新書)武士道の逆襲 (講談社現代新書)感想
ロマンをもって語られることの多い武士および武士道の真の姿を解き明かす。墾田永年私財法の施行以降、盗賊など外敵から開墾した土地や一族郎党を守るために武装したことに端を発した荒々しい武士が武家政権に組み込まれ、江戸時代に至って『葉隠』で対象化・理想化していく過程が非常に興味深かった。
読了日:10月28日 著者:菅野 覚明
繭、纏う 1 (ビームコミックス)繭、纏う 1 (ビームコミックス)感想
主人公のキャラクターや舞台となる学校の雰囲気が『FLOWERS』秋篇を思わせる。本作の方がより当世的かつ耽美的でシャープな印象が残る。女学生の髪で作られた制服、というのは果たして噂に過ぎないのか真実なのかが気になるところ。
読了日:10月29日 著者:原百合子

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