疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2019年3月の読書

3月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:3361
ナイス数:93


石黒くんに春は来ない
石黒くんに春は来ない感想
ある女子生徒らがスキー旅行中の事故により意識を失った男子生徒に代わって、その遠因を作ったクイーンビーに復讐を図る、というスクールカーストの存在を前提とした小説。LINEにより上位組を疑心暗鬼に陥らせて分断する手口にリアリティがあった。帯の惹句にもなっている「正論で人を殴るのが楽しくて仕方ない」というのはなんとも普遍的であり、説得力を感じざるを得ない。あと、語り部の主人公とその親友の関係が百合だった(小声)。
読了日:03月03日 著者:武田綾乃
スカーレット(1) (百合姫コミックス)スカーレット(1) (百合姫コミックス)感想
とある理由で赤頭巾を被るアイリスと剣士フィーネの異種族&主従百合コミック。表紙のイラスト通り耽美で血生臭い雰囲気が何ともたまらない。このようなダークファンタジーの世界観を持つ作品を「コミック百合姫」から出版したのは英断だ。
読了日:03月05日 著者:結野 ちり
実存主義 (岩波新書 青版 456)実存主義 (岩波新書 青版 456)感想
自らが存在することの意識を突き詰める思想としての実存主義哲学史的観点から概説。マルクスの「自己疎外」とは自己の労働の成果が他社のものとなる「外化」「他有化」であり、実存主義の系譜から語ることができるものであることを知ったのが大きな発見だった。
読了日:03月06日 著者:松浪 信三郎
金・銀・銅の日本史 (岩波新書)金・銀・銅の日本史 (岩波新書)感想
日本における金・銀・銅の採掘から抽出、製品の加工についての歴史を語る。言い換えれば職人技によるものづくりの歴史。著者は工学が専門であり、そのあたりからの知見から熱っぽく解説していてどこかエッセイのようでもあった。
読了日:03月07日 著者:村上 隆
ファウンデーション ―銀河帝国興亡史〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)ファウンデーション ―銀河帝国興亡史〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)感想
かの「スター・ウォーズ」や「銀河英雄伝説」の元ネタとなったSFの大作。天才科学者が未来予知じみた理論により、銀河帝国崩壊後の暗黒時代を短縮させることを目論むというスケールの壮大さが何よりも目を惹く。暗黒時代を完全になくすことはできず、あくまでも短縮させるという前提、ファウンデーション(財団)を帝国に匹敵するような勢力にする、といった着眼点も興味深い。聖職者云々の描写は作者アシモフが自ら聖書の解説書を上梓するほどの聖書研究家としての一面を持っていたことを思い起こさせる。
読了日:03月11日 著者:アイザック・アシモフ
華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)感想
あらゆる書物が発見されるたびに焼却処分され、文字による情報伝達が行われなくなったディストピアが舞台のSF小説。主人公は焚書を実施する官吏として務めを果たす中でいろいろな人、いろいろな書物に出会う中で体制に疑問を抱くようになるが…。ジャンルはSFだが、シェイクスピアなど古典の引用が多く、どこか情に訴える場面が多い作品だったという印象。従来「焚書官」と訳されてきた主人公の職業を新たに「昇火士」と訳したことで、体裁を取り繕っても隠し得ないディストピアらしさが逆説的に目立つ形になったと思う。
読了日:03月13日 著者:レイ・ブラッドベリ
あの娘にキスと白百合を 9 (MFコミックス アライブシリーズ)あの娘にキスと白百合を 9 (MFコミックス アライブシリーズ)感想
白峰あやかが永らくライバル視してきた黒沢ゆりねに勝ったと思ったら、その勝利は意外と虚しいもので…。というわけで本作もそろそろ終盤。コスプレカップルもつよい。
読了日:03月18日 著者:缶乃
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)感想
生物学者である著者による著書。文章がこなれていて、職業作家のエッセイを読んでいるかのようだった。「生物と無生物の境界線は自己複製をすることにある、生物学における「動的平衡」、DNAの一部をノックアウト(欠損)させても、マウスの生育にさしたる影響はない、といった話題が変幻自在に語られており、ド文系の自分でも楽しめる内容だった。
読了日:03月19日 著者:福岡 伸一
ルミナス=ブルー(1) (百合姫コミックス)ルミナス=ブルー(1) (百合姫コミックス)感想
「透明な薄い水色に」の頃から思っていたが、作者の繊細で端正な絵柄と匂いまで伝わってきそうな蠱惑的な表情の描き方がたまらなく好き。なんだか複雑な展開になりそうだが、タイトル通り(?)、垂水光と青野寧々が昵懇になっていく予感がする。
読了日:03月22日 著者:岩見 樹代子
FLOWERS 2 ―Le volume sur printemps- フラワーズ〈春篇・下〉 (星海社FICTIONS)FLOWERS 2 ―Le volume sur printemps- フラワーズ〈春篇・下〉 (星海社FICTIONS)感想
春篇の残り半分。アミティエ2人との三角関係が生じる中で蘇芳が精神的に追い詰められていく過程と、その後のどんでん返しが眼前に鮮やかに蘇ってくるようだった。終盤が冬篇までの結末を意識している内容になっていたのは新鮮。
読了日:03月22日 著者:志水 はつみ,Innocent Grey
あの娘にキスと白百合を 10 (MFコミックス アライブシリーズ)あの娘にキスと白百合を 10 (MFコミックス アライブシリーズ)感想
最終巻。今までの登場人物たちが一堂に会するオーソドックスな展開。白黒をはじめ、誰もに前途洋々の未来が待ち受けている予感ができる幕引きだった。
読了日:03月23日 著者:缶乃
子どもが増えた!  明石市 人口増・税収増の自治体経営(まちづくり) (光文社新書)子どもが増えた! 明石市 人口増・税収増の自治体経営(まちづくり) (光文社新書)感想
パワハラ発言が問題となって辞職するも、5年連続で子育て世代の人口を増加させたことなどの実績を評価され、出直し選挙で当選した泉明石市長の市政を各分野の有識者と論じた本。「子ども中心の街づくり」を標榜して、2人目以降の保育料、施設使用料、医療費を無料化にするなどの政策はわかりやすい。他にも犯罪被害者の支援を兼ねつつ、加害者の賠償金の立替えといった一見忌避されそうな取り組みもなかなか重要だと思った。確かな実績を残したこともパワハラを働いたことも事実であることに政治家の評価の難しさを感じた。
読了日:03月25日 著者:湯浅誠,泉房穂,藻谷浩介,村木厚子,藤山浩,清原慶子,北川正恭,さかなクン
女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 (中公新書)女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 (中公新書)感想
再度読んだことで「少女たちを主人公とした物語」であった吉屋信子花物語』がなぜ女学生の必読書として扱われたのか納得できた。他にも「『よくってよ』『~だわ』など女学生の言葉遣いが乱れている」、「最近の女学生は読書ばかりして勉強が疎かになっている」今から見れば奇妙に聞こえるが当時の常識に沿った大人による女学生批判の記述と、その中には彼女らへの未熟さを蔑むものの他、羨望や嫉妬といった感情によるものがあったというのが興味深い。
読了日:03月28日 著者:稲垣 恭子
ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)感想
プラトンイデア論と神はイデアの媒介なく存在するため世界の諸存在に必然的関係はないことを説く「オッカムの剃刀」との関係、「もし私が欺かれるとすれば、私は存在する。なぜなら、存在しない者が欺かれることはありえないのだからだ」と説くアウグスティヌスデカルトの「我惟うゆえに我あり」など、思想を対比させて読むことで勉強になった。
読了日:03月31日 著者:岩田 靖夫

読書メーター