疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

PSYCHO-PASS3

psycho-pass.com
そういえば2と3の間の劇場版とか見てなかった。

割と社会派刑事ドラマ

毎回毎回本格派刑事ドラマみたいで面白い。2019年の最高のアニメ最有力候補かもしれない。「PSYCHO-PASS3」の世界は移民問題に国際企業の存在など、2までのシリーズと光して大幅な路線変更があった感。一課も当時のメンバーは雛河執行官だけだし、朱や宜野座さんの顔見世はあったものの、戸惑いを隠し切れない自分がいる。

移民・難民が登場する件、思ってみれば2の「地獄の季節」事件で不法難民が東金財団による人体実験の犠牲者として登場していた。古のサブプライムローン問題から都知事選、薬物濫用まで、100年後の未来が舞台なのに現代の問題と同期させる社会派アニメとしての性格が色濃く出ていた。

BLの趣味は持たないが、灼と炯のザイルパートナーという関係は見応えがある。日本語の「相棒」よりもさらに持ちつ持たれつで、互いの命綱を預け合う関係。生死のかかった際どい状況で絆の深さが試される関係と言ったところ。ノイタミナ枠でproduction IG制作、主役コンビの中の人が梶裕貴中村悠一だから、PSYCHO-PASS3は事実上のギルティクラウン2期と言える

霜月監視官、課長という管理職に出世していた。現場の刑事よりは人員管理や関係部署との折衝とか裏方の仕事の方が向いていそうだから、実は適職なのでは。先輩が超絶有能だった場合のシン・アスカみたいなポジションから宇宙戦艦ミネルバの艦長程度のポジションになった霜月美佳。

1作目以来のファンとしては、狡噛・宜野座コンビが揃ったのはとっては嬉しい。厚生省と外務省の縄張り意識が背景にあるあたり、組織の中で生きる人間のドラマとしての一面がある本作。そして、六合塚さんが執行官から社会復帰して外部協力者枠に収まったことに感動。TVアニメ終盤で重傷を負ったけど、復活してよかった。

小宮・薬師寺両陣営による都知事選までを追ったわけだが、裏社会のフィクサー気取りの榎宮が、さらに黒幕となる組織・ビフロストのインスペクター梓澤廣一の掌の上で踊らされていたのが哀れではある。ビフロストはラウンドロビンというAIを擁し、これとシビュラシステムの関係は後述の「FIRST INSPECTOR」で判明した。

人間の脳の重さが体重に占める割合は3%だが脳だけで全エネルギーの20%を消費するので、脳としてはなるべくエネルギーの消耗を抑えたい。それゆえ余計なことを考えず与えられた情報を丸呑みにしてしまった方が楽、という考え方はシビュラシステムそのものの理論的支柱にもなっているのかもしれない。古代ローマの詩人ユウェナリスは「民衆はパンとサーカスによって、政治的盲目に置かれている」と詩篇で揶揄したが、盲目である人に「自分は盲目ではない」と思わせることこそ統治の要諦があるように思う。

ディストピア体制下の人々は大抵抑圧を息苦しく思う前に、抑圧を自ら嬉々として受け入れるものだ。政治家から見れば自ら進んで支配されることを受け入れる民衆ほど御しやすい連中もなかなかない。自由であることが苦痛で自ら自由を差し出す、というとドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』に登場する大審問官のエピソードを思い出す。

シビュラシステムに加わりたかった男

「PSYCHO-PASS3 FIRST INSPECTOR」を見終わった。シビュラシステム下での刑事ドラマであると共に、完全性と公正性を志すシビュラシステムそのものの成長の物語でもある。型月風に言えば神はシステムだが、シビュラシステムは元をたどれば人間の脳だから人間的であるし不完全だし成長もする。2期で言及のあった「全能者のパラドクス」の問題に直面している、常に鼎の軽重を問われ続けているシステムなのだ。

PSYCHO-PASSシリーズが今後も続くと考えた際、予想できる展開は犯罪係数デバッグを行う極秘部署として出発したビフロストとの関係も判明、コングレスマンとして灼にベットしたことで生き残った法斑静火が二つに分かれていたシビュラシステムとラウンドロビンを再接続がどのように影響するかが見どころである。彼は局長として常守朱を監視官とあいて現場に復帰させるなど、胡散臭いが采配はまともだ。霜月課長の胃が壊れそうだが。

それにしても梓澤さんのシビュラシステムに混ざりたいマンぶりには驚いた。「人は生きている限り、社会の中の歯車に過ぎない。であれば、俺はその頂点を目指す」と豪語してコングレスマンを志望していたが、本当はシビュラシステムの一員になりたかったとは。その後シビュラ直々にそのエゴを暴かれて無下に断られたのは滑稽でもある。そして動機が灼の父親が免罪体質者でシステムに取り込まれたことだったことに二重に驚愕。免罪体質をシステムに見込まれながら誘いを拒否した槙島さんと対照的だ。