疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2021年1月の読書

1月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1948
ナイス数:51

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福感想
霊長類ヒト科の中でホモ・サピエンスが文明を築き、繁栄を謳歌するに至った過程を解説する。著者はホモ・サピエンスが7万年前から「虚構」を信じ、その結果として国家や宗教、人権や平等に貨幣といった概念が生まれて多くの人が協力するようになったことに求める。アンダーソン『想像の共同体』における公定ナショナリズムの興隆のメカニズムを他の「虚構」について敷衍したかのような論で興味深い。農業革命により土地や時間の概念に束縛されるようになった、という見方も新鮮だった。
読了日:01月10日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
忘れえぬ魔女の物語 (GA文庫)忘れえぬ魔女の物語 (GA文庫)感想
京都アニメーション的なイラストが目を引くライトノベル。同じ日を何度も繰り返すたびに消耗し、どこか老成した少女が親友となった少女を死の運命から救う展開が軸になっている。文章から滲み出る感情の豊かさが読んでいて心地よく、少女二人の関係を題材にしつつ時空のループを扱った作品としては「紫色のクオリア」以来の傑作だと思った。しっかりSF的な考証があるのが特徴的で、終盤の問題解決の方法を提示している点が気に入った。最後まで読むと、タイトルに込められた意味が感じられてしみじみする。
読了日:01月16日 著者:宇佐楢春
サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福感想
現代文明の隆盛はて帝国・科学・資本のフィードバックループが生み出したことを縷々と述べ、科学技術によって人が死を克服する未来も射程に収まりつつあることを見据える。たとえばアセモグル&ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』で労働力や資本を必要な時に必要な分を必要な場所に融通できる制度こそが、西欧(とりわけ英国)が近代世界の主役の座に押し上げた原動力であることを説いたが、著者は似たような視点から「信用」を強調してその説を補強しているように思えた。
読了日:01月17日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来感想
『サピエンス全史』が人類の飢餓・疫病・戦争を克服しつつある過去から現在を素描した著作であるなら、本書は人類が非死(不死と異なり病死や老衰を克服するにとどまる)・神性・幸福の獲得を目指しているという現在から未来を展望する著作と言える。これから本格的に来たるべきAI社会に向けて、美も意味も権威も人間の裡にあるとする人間至上主義との折り合いの付け方は何とも難しい問題だ。
読了日:01月20日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来感想
上巻の続きではあるが、人間の機能として問題処理能力としての「知能」と内面や情動を司る「意識」に分けて議論を進めていく点は著者の炯眼だと思った。AIが意識を獲得したらどうなるか、という懸念はSF作品でもなじみ深いが、AIが労働を人間にとって代わる生じる無用の人間の問題とも重なる難問だ。アルゴリズムに人間のどこまでを譲ればいいのかを一人ひとりが熟考する必要があるだろう。
読了日:01月27日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考感想
人類の過去と未来を語り明かした著者が語る人類の現在。前2著作と重複する論点も多いが、SNSの役割として「自分の経験を他者とシェアする」という点を強調するザッカ―バーグの展望や後半のパートでソクラテス的な「無知の知」を意識する「謙虚さ」を持つことの重要性を幾度も繰り返していた点が興味深かった。
読了日:01月31日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ

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