疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2021年3月の読書

3月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2833
ナイス数:169


フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)感想
ド文系の自分にとっても、とても面白い読み物だった。幼少期より驚異的な知能を発揮し、原子爆弾、プログラム格納方式コンピュータ、天気予報の開発やゲーム理論の確立など我々の生活にも直接関わる幅広い分野で業績を残した科学者の生涯を綴った評伝。マンハッタン計画で共に原爆開発に携わったアインシュタインオッペンハイマーが良心の呵責に苛まれる一方、ほぼ平然としていたノイマンの科学優先主義と倫理観の乏しさにフィクションに登場するマッドサイエンティストのような雰囲気を感じた。
読了日:03月01日 著者:高橋 昌一郎
百合SMでふたりの気持ちはつながりますか? (1) (芳文社コミックス/FUZコミックス)百合SMでふたりの気持ちはつながりますか? (1) (芳文社コミックス/FUZコミックス)感想
SMにほとんど興味のない自分でも楽しめる作品だった。姉のように慕う澪を首輪に繋いで犬のように散歩させる更紗の恍惚の表情は実に美しい。テーマがテーマであるせいか、嗜好は倒錯している(あるいはその嗜好があったことを自覚するに至る)登場人物ばかりだが読後感はどこか爽やかだった。
読了日:03月03日 著者:みら
JKとともだちのオカンJKとともだちのオカン感想
タイトルと表紙通りの作品。二回り近く年上の相手に惚れる由香ちゃんも、優しく美人だがどこか抜けている美穂子さんもかわいい。コメディチックだけど、年齢差を乗り越えて二人が距離を縮めていく暖かみのある作品だった。これは後日談がほしいところ。余談だけど、由香と卓也のメインキャラ同士でありながら恋愛を前提としない友人関係にはかえって新鮮味があった。
読了日:03月06日 著者:ムロマキ
1984年に生まれて (単行本)1984年に生まれて (単行本)感想
タイトル通り1984年、中国の天津に生まれた作家の自伝「的」小説。文化大革命期に青春時代を送った後海外を転々とする父と、改革開放期に生まれ育った娘の物語という体裁。視点の切り替わりが頻繁な上に時系列が入り乱れていて全体像が掴みにくいが、文章自体は流麗で読みやすい。現代中国の抑圧感、冷たさ、古臭さを残しつつも変化を綴るという様々な面が濃密に描写されていた。正解を見つけようと迷い、足掻き、自問自答し続ける「私」の姿勢にオーウェル1984年』で次第に「真実」に気付いていくウィンストンに通じるものを感じた。
読了日:03月11日 著者:郝 景芳
第三帝国 ある独裁の歴史 (角川新書)第三帝国 ある独裁の歴史 (角川新書)感想
第一次世界大戦後から第二次世界大戦でのドイツの敗戦までを概説したナチ・ドイツの新しい入門書と言えるドイツ人歴史学者の著作。同様の位置付けの石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』がヒトラーの政権掌握の過程やその後の政権やNSDAP党内の動向の解説に比重を置いていたのに対し、本書は「第三帝国」を生み出したドイツの国内事情や国民性、周辺国、特にポーランドに対する強制労働などの行為に関して詳述している。力技で恐慌後のドイツ経済を建て直したものの、そのツケを戦争や強制労働といった暴力で補填することになったのが悲惨。
読了日:03月14日 著者:ウルリヒ・ヘルベルト
放課後探偵団2 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー) (創元推理文庫)放課後探偵団2 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー) (創元推理文庫)感想
1990年代生まれの若手作家による学園ミステリーのアンソロジー武田綾乃作品の足フェチとも思えるこだわりのある描写や、斜線堂有紀作品の本書で唯一死者が出る展開の衝撃とほろ苦さが印象深い。
読了日:03月15日 著者:青崎有吾,斜線堂有紀,武田綾乃,辻堂ゆめ,額賀澪
ヒンドゥー教10講 (岩波新書 新赤版 1867)ヒンドゥー教10講 (岩波新書 新赤版 1867)感想
インドにおいて多数派でありイスラーム教、仏教、ジャイナ教ゾロアスター教シーク教キリスト教などのいずれにも当てはまらない宗教としてのヒンドゥー教の歴史的背景やその思想の内容について解説。バガヴァット・ギーターにおけるクリシュナとアルジュナの対話や一面や日本仏教における密教との関連性についての記述が興味深かった。とはいえ本書についてはわからないことだらけだったので、ヒンドゥー教(というよりもインドの思想・宗教全般)についてはもう少し基礎的なテキストを読むことが自分には必要だと思った。
読了日:03月18日 著者:赤松 明彦
故事成語でわかる経済学のキーワード (中公新書)故事成語でわかる経済学のキーワード (中公新書)感想
「覆水盆に返らず」からサンクコスト、「漁夫の利」からゲーム理論など、故事成語とその背景にある物語を通じて経済学の理論を繙く。興味深いのはそれぞれ性善説性悪説、正反対とも言える自説を提唱した孟子荀子も共に学ぶ者のインセンティブを重視している点では共通していたと捉える点。教育者の面目躍如といったところか。
読了日:03月20日 著者:梶井 厚志
ネクラとヒリアが出会う時 (ファンタジア文庫)ネクラとヒリアが出会う時 (ファンタジア文庫)感想
イケメンだがトラウマゆえに人付き合いが苦手な「ネクラ」少年と、多くの生徒から注目される両家の令嬢でありながら友達がいない「ヒリア」の少女が互いに素性を伏せたまま距離を縮めていくラブコメ。二人が手探りで着実に交流を深める展開には心温まったが、それゆえに正体がバレて気まずい雰囲気が漂った時にはハラハラした。最後は無難だった、だがそれがいい
読了日:03月22日 著者:村田 天
恋に至る病 (メディアワークス文庫)恋に至る病 (メディアワークス文庫)感想
人間の内面というブラックボックスそのものをミステリーとした作品にして、実在したSNS上で展開される自殺教唆事件をモチーフとした小説。最初はちょっとした指示で始まるゲームがエスカレートし、最終的に主体性のない群畜の如き人間が生贄となるさまは恐ろしい。寄河景の最期は「Fate/Prototype」の沙条愛歌(こちらも聡明さと純真さと倫理観の欠如を併せ持った少女)の末路を想起させるものだった。作者の作品をもう一冊読み、面白かったら他の作品も手あたり次第読んでいきたい。
読了日:03月31日 著者:斜線堂 有紀

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