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L'aube de l'horizon

ごきげんよう

2014年の読書

書籍

今年読んだ本の中で、特に感銘を受けた本を10冊ピックアップ。内容としては堅めのもの。柔らかめのものはアニメや漫画と一緒にエンタメ枠でお送りする予定。

人間不平等起原論・社会契約論 (中公クラシックス)

人間不平等起原論・社会契約論 (中公クラシックス)

ご存じジャン・ジャック・ルソーの著書。

『人間不平等起原論』では人間が自然を切り開き、社会を築いて私有や悪徳の概念が生まれたことで不平等が拡大したことを説く。「未開人は自分自身のなかで生きているのに対して、社会人は常に自分の外にあり、他の人々のなかでしか生きることができない」など、現代日本に生きている私にとって身につまされる内容が多かった。

『社会契約論』で社会の構成員個々人が公共の福祉を追求することで形成される「一般意志」に基づいた直接民主制を理想の政体とする。ルソーが人間は本来善良であると認識している点、風俗や慣習、世論を明文化されていない「法」であり、一切の拘束を受けるべきでないと捉えていた点について勉強になった。個人的に「一般意志」は過激な思想であると思うが…。

物語タイの歴史―微笑みの国の真実 (中公新書 1913)

物語タイの歴史―微笑みの国の真実 (中公新書 1913)

タイを「世渡り上手の優等生」と位置付け、同国の歴史を古代から概観する。

タイの歴史に顕著なのは、有能な人物には出自を問わず、権限や爵位を惜しみなく与える実力主義(例:山田長政)と、父君たる王や首相の下発揮される絶妙なバランス感覚。そのため、チャックリー改革のような近代化政策を円滑に推進できたし、第二次世界大戦期に首相を務めたピブーンは中国、欧米諸国、そして日本といった大国と外交で渡り合い、独立を保つことに成功した。

一方で、スコータイ朝やアユッタヤー朝の頃から、政治家や軍人の間で政治闘争が頻繁に起こってきた歴史が、現代のタイに影を落としていることを痛感。確かにクーデターは頻発するが、国王が動けばたちまち収束するのはタイのいいところか。

後藤新平―外交とヴィジョン (中公新書)

後藤新平―外交とヴィジョン (中公新書)

台湾民政長官、満鉄総裁、内務大臣、外務大臣東京市長関東大震災後の帝都復興院などの要職を歴任した後藤新平の事績を綴った一書。

興味はあったがよく知らない人だったので勉強になった。台湾総督だった児玉源太郎に民生のエキスパートとして抜擢されて以降、確かな構想力と実行力を遺憾なく発揮。台湾や満洲、震災後の東京のインフラ整備、大胆な人材登用、複雑に変化する国際関係の中で中国やロシアとの関係を重視した柔軟な外交を行ったという点でその存在感は大きい。安定感に欠け首相には向いていないという記述や、シベリア出兵は失策だったという彼の欠点や失敗も含めて後藤新平のことがわかった

日本の思想 (岩波新書)

日本の思想 (岩波新書)

日本の思想の無限抱擁性と雑居性(×寛容性)に由来する思想の共通の土台の稀薄さから、日本社会を「タコ壺型」と定義した画期的一著。

印象深いのは日本人の同質性に関する分析。どの集団も内輪向けの意思疎通は得意なのに、対外的意思疎通が不得手なため、大多数に訴えかけようとする際、同じような行動をとってしまう(例:複数のマスコミが同じタイミングで、同じニュースを繰り返し報道する)。これに関連した少数者意識(多数派は自分の意見を聞き入れてくれない、という錯覚)についての指摘も見事で疑問が氷解した。

貧困の克服―アジア発展の鍵は何か (集英社新書)

貧困の克服―アジア発展の鍵は何か (集英社新書)

インド出身のノーベル経済学賞を受賞した学者の講演等を収録。

貧困は政治・経済的自由を「剥奪」されることで正直かつ民主主義的な手続でそれらの自由を確保するところから国家の繁栄が始まることを説く。ボツワナの成功やタイや韓国での通貨危機など、講演当時の時事に沿った言説にも説得力があった。彼が高く評価していた小渕恵三元首相の急逝が惜しまれる。

漱石文明論集 (岩波文庫)

漱石文明論集 (岩波文庫)

夏目漱石の講演や新聞のコラムを収録。

具体的なテーマは講演によって異なるが、西洋文明・文化と如何に向き合っていくか、という問題意識は通底している。舶来の思想を自己に内面化する際の苦闘したことがよくわかる。特に自分個性を発展させたいなら、他者の個性を重んじ、権力や金を用いるなら、それに伴う義務や責任を果たすべきことを説く「私の個人主義」は名文である。

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

東大教授の著者が高校生に向けて、日清戦争から太平洋戦争までの、近代日本が携わった戦争の開戦の経緯を中心に講義するという形式の本。

本書は、2000年代以降の研究に基づき、安全保障の観点からの開戦の理由の解説に多くのページを割いている。1970年代まではマルクス主義的唯物史観の影響によって帝国主義の観点(資本や新市場の獲得を目的とした植民地拡大)から「日本の侵略戦争」が語られることが多かったのとは大きく異なる。満蒙の地は「二十億の資財と二十万の生霊(死者)」を投じて獲得したという山縣有朋の言葉や、日露戦争以降進んだ選挙権拡大に伴う有権者と政党の変質と戦争の関連性の解説が印象深い。

高橋是清を描いた小説。

若き日の是清は農商省官僚として日本における知的財産の概念の普及、初代特許局長官として特許制度の導入といった国家のグランドデザイン作りに邁進する。

日露戦争の戦費調達のため、日銀副総裁として欧米での国債の売り出しを成功させる場面は本作のハイライト。ユダヤ人弾圧政策をとっていたロシア帝国に敵愾心を抱いていたユダヤ人資本家のシフを味方につけられたのは大きい。また、大蔵大臣として、二度の世界的大恐慌下で不況脱却を主導。政治的駆け引きや派閥争いに執着せず、広い視野と強い実行力を以て難局を乗り切る姿は、確かに政治家として理想的な姿だった。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

ビッグ・ブラザーを頂点する党の管理主義的独裁に抑圧された国家「オセアニア」を描写したディストピアSF文学の傑作。

改めて読み、オセアニア政府の統治システムの巧妙さと悪辣さに感嘆した。二分間憎悪にはじまり、ニュー・スピークやダブル・シンクのような思考誘導もさることながら、政敵であるはずのゴールドスタインですら、実態不明の捏造された敵である、という設定に驚きを隠せない。現実でも似たような現象が思い当たるのでなおさら。