疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2021年4月の読書

4月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2480
ナイス数:158

古代メソポタミア全史-シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで (中公新書)古代メソポタミア全史-シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで (中公新書)感想
現在のイラクを中心とした古代メソポタミア地域の通史。北部のアッシリア(アッシュルの地)と南部のバビロニア(バビロンの地)に二分されて対立と共存を繰り返した国際色豊かで高度な文明が繁栄したことが見て取れる。世界最古の法典で現代でいう刑法のみならず民法も網羅したウル第三王朝のウルナンム法典が350年の時を経て有名なバビロン第一王朝のハンムラビ法典に取って代わった変遷に関する記述が興味深い。やや通史という性質故か、浅く広くの記述になってしまっているのが悔やまれる。
読了日:04月01日 著者:小林 登志子
病気の日本近代史: 幕末からコロナ禍まで (小学館新書 は 12-1)病気の日本近代史: 幕末からコロナ禍まで (小学館新書 は 12-1)感想
内容はタイトル通り。興味深かったのは医学と政治・軍事の関係について。明治期の脚気の原因を巡って栄養不足説と病原菌説で意見が割れ、森鷗外(林太郎)が後者の意見に固執して日露戦争で麦飯を白飯に強行的に変更させたために軍内で脚気が蔓延したことは教訓として銘記しておくべきだと思った。肺がんに関する章は著者が愛煙家であることを差し引いても、喫煙率減少と肺がんの死亡者数に相関性が見られなかったことは興味深い。
読了日:04月15日 著者:秦 郁彦
夢の国から目覚めても (星海社FICTIONS)夢の国から目覚めても (星海社FICTIONS)感想
同性愛者の有希と異性愛者の由香、二人の関係を軸として「百合」ジャンルに対するものの見方を描いた純文学的な小説。創作者もファンも、生い立ちも好きな作品も価値観もセクシュアリティも異なる者同士が行き交って時にすれ違い、時に出会いのあるジャンルが百合であることがよくわかる内容だった。最後の最後で「魔法少女まどか☆マギカ」を踏まえたものになっている点に「百合」ジャンルの当事者として託すものは異なれど、同ジャンルに救済を求めて祈っている点で一致を見ているように思った。
読了日:04月18日 著者:宮田 眞砂
ジョニーは戦場へ行った (角川文庫)ジョニーは戦場へ行った (角川文庫)感想
第一次世界大戦で五感のうち触覚を除く4つと両手足を失ったジョニーの意識の変化を描いた反戦文学の傑作。ジョニーにとって最後の砦となる意識と触覚の鮮烈さと鋭敏さの表現が筆舌に尽くし難い。そして最後に彼がたどり着いた結論も悲壮感漂うものだった。看護婦に「MERRY CHRISTMAS」と指で身体に書いてもらうシーンは印象深い。
読了日:04月22日 著者:ドルトン・トランボ
沈黙 (新潮文庫)沈黙 (新潮文庫)感想
再読。ロドリゴの棄教のきっかけが鼾だと思っていた声が拷問に苦しむ信徒たちの呻き声だったこと、沈黙を破った「主」が踏み絵の苦痛を受け止めることを囁いたことだったが、そのシーンの描写は背徳的で甘美さすら感じるものだった。八百万の神々が住まう国、と表現すれば聞こえはいいが、その言葉で捕捉しきれない「沼」としての日本の風土の不穏さと不気味さを思い知った。本作において、飴と鞭を使い分けて棄教を迫る井上筑後守はその尖兵と言える。
読了日:04月23日 著者:遠藤 周作
戦争は女の顔をしていない 2戦争は女の顔をしていない 2感想
コミック版監修を担当する速水螺旋人氏の「この本は理解するためのものではありません。理解していないことを知るための本です。」というセンテンスが重い。2巻でもまた人並みの幸福を棄て、病に暴力、そして死が日常茶飯事の戦場において生き抜いてきた女たちの体験談に戦慄する。
読了日:04月24日 著者:小梅 けいと
ロンリーガールに逆らえない(3) (百合姫コミックス)ロンリーガールに逆らえない(3) (百合姫コミックス)感想
呼び方が彩花、空と下の名前に移行して距離が縮んでいく。そんな中、特に彩花側が自分が本当に空のことを好きなのかどうか気持ちが試される展開になり、緊張感が漂ってきた。
読了日:04月28日 著者:樫風
物語韓国史 (中公新書)物語韓国史 (中公新書)感想
中公新書の「物語○○史」は史料的事実に基づいた通史であることが多いが、本書は神話および民族的アイデンティティの言及が多く本来の意味で「物語」としての歴史を語る本だった。檀君の「天孫降臨」や卵から生まれた伝説を持つ高句麗の祖・朱蒙、統一新羅→高麗王朝への移行は血縁という点で連続性があったことは知らなかった。なお、本書は三国までの歴史にほとんどの紙幅を割いており、高麗以降の歴史はほぼオマケ。
読了日:04月29日 著者:金 両基
雨でも晴れでも (2) (電撃コミックスNEXT)雨でも晴れでも (2) (電撃コミックスNEXT)感想
今回は昭和歌謡レコード部の2人がメイン。性格が異なるケンカップル同士でありながら、同じものに影響されて互いの心に爪痕を残しつつ信頼と愛を深め合う関係が濃やかに描かれていた。
読了日:04月29日 著者:あらた 伊里
繭、纏う 4 (ビームコミックス)繭、纏う 4 (ビームコミックス)感想
華への思いを自覚し、逡巡する洋子を玲奈が強引に風呂に誘って話を聞き出すシーンがなんとも耽美的。そして一歩踏み出す洋子を手を引こうとする華の姿が何とも哀愁漂っていた。
読了日:04月30日 著者:原百合子

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