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L'aube de l'horizon

ごきげんよう

黄昏色の詠使い

繊細ながらも力強い透明感のある傑作ファンタジー


今読み返してみると、何だか懐かしさすら感じるファンタジー作品。世界観といい、ストーリー展開といい、キャラの描写といい、完成度が高い作品だったんだなと思う。本編も勿論だが、編集部の解説文が温かい。

この『黄昏色の詠使い』といえば

「後罪(クライム)の触媒(カタリスト)を讃来歌(オラトリオ)なしで?」本作3巻 173頁

という邪気眼的、中二病的台詞が有名だが、笑ってはいけない。本作の魅力はそれには留まらない。

本作の魅力は大きく分けて2つ。触媒を用いて何かを呼び出す5色の名詠式、名詠の際にセラフェノ音語といった諸要素から成り立つ繊細かつ透明感のある世界観、そしてそれを反映したかのように真っ直ぐで温かみのある登場人物同士の人間関係。文字通り詠うような一片の長編詩のような作品である。無駄な設定や人物がなく、登場する要素をフル活用できている印象が強い。特に主人公であるネイト・イェレーミアスとヒロインであるクルーエル・ソフィネットの関係はどこか微笑ましくもある。

飛び級でトレミア・アカデミーに編入し、新しい環境に不慣れなネイトにクルーエルが声をかける出会いに始まり、序盤のコンクールの事件や灰色名詠使いによる石化事件の解決を経て絆を深めていく2人。中盤に差し掛かってクルーエルが意識を失って倒れ、ストーリーに暗雲が立ち込める。何だか心配になってくるが、それでもネイトが不安を感じながらも、しっかりした態度を見せており、読者をいい意味で安堵させてくれる展開になっている。

この後も世界の調律者アマリリスとクルーエルおよび彼女らを生み出したミクヴェクス、そしてミクヴェクスと対立するアマデウスといった、本作の世界の真相が徐々にストーリーが進むにつれ明らかになる。言葉だけで説明すると何ともコテコテのセカイ系といった具合だが、そうはならないのがこの『黄昏色の詠使い』。先に挙げた「後罪の触媒を讃来歌なしで?」という本作を象徴する(?)台詞も一見平凡な少女と思われていたクルーエルのルーツや能力の片鱗を示すもので、単にウケを狙ったものではない。

自分にとってのハイライトはクルーエルの消失を不安に思うネイトに対してアーマがかけた

「何千何億回と繰り返された歴史(すれちがい)の中、だがその一瞬の交差で終わらず、お前たちは互いに振り返った。それこそが何にも代えがたい奇跡であることを最後まで信じぬけ」本作7巻 177頁

という台詞。クルーエルを失うのではないかというネイトの不安と彼女への思いと同時に、アーマの考え方もよく表れた台詞だと思う。他者への思いやりが強いゆえに自分を過小評価する傾向のあるネイトだが、この台詞を通して彼が自分の決断を信じ、アーマやクルーエルを信じて行動してきたことが終盤の展開につながっていることが窺える。

最終巻は今まで築き上げてきた人間関係やストーリーの積み重ねの上に成り立っていることが実感できる、感無量の大団円といったところ。最後の展開には安堵した。よかったね、としか言いようがない。

改めて読み返してみての気付き

大筋の感想は7年前に初めて読み終えたときと変わらないが、今回読んでみて強く実感したことがある。それはカインツをはじめとした年長者たちの描かれ方だ。カインツとイブマリーのエピソードは切ないが、主役たるネイトやクルーエルを見守っていこうというカインツの姿勢が見えており、思わず感情移入した(以前読んだ時と比べて歳が近くなったからか)。トレミア・アカデミーのエンネ、ミラー、ゼッセルという腐れ縁教師3人組教師陣もなかなかいい大人している。

イ短調の面々も個人的に気になったのはミシュダル、ネシリス、シャンテの3人。灰色名詠使いのミシュダルは不器用なレインにはぶっきらぼうながらも彼なりに優しく接したり、ネイトを見て自分の過去の未練を強く意識したりと、なかなか人間臭くて憎めなかった。闘技場で戦うことしか能がないと嘯くネシリスと、あらゆる人を見下してきた故にあらゆるものを失った後、ネシリスに認められたシャンテの大人の関係がどこか烈しくも哀切で目を瞠った。

その他作者の次回作にあたる『氷結鏡界のエデン』とのリンクについても こちらを読んでいた頃には本作の設定を結構忘れていたせいか、発見した点は多かった。この「エデン」は本作と世界観やセラフェノ音語を共有している。終盤に出てきたアマリリスとかアマデウスとかミクヴェクスとかそのまんまだったし。


というわけで久々にライトノベルについて語った気がする。学生~フリーター時代はSNSや先代のブログで毎日のように語っていた憶えが…。