疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

ダンケルク

ここ1,2年でアニメ映画だけでなく実写映画も頻繁に見るようになった。本作もその一環。

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撤退戦を兵士の目線で活写する

本作は第二次世界大戦期の1940年、イギリス軍がフランス最北の港町ダンケルクからの撤退を余儀なくされた撤退戦(ダイナモ作戦)を描いた映画。最新の映写システムIMAXのおかげか、臨場感が半端なかった。映像はクリアで、音響も文字通り身体の中が揺さぶられるような感じで迫力満点だった。

一通り鑑賞してまず感じたことは、ほぼ一貫して撤退戦を生き延びようとする兵士の視点で展開される物語だったということだ。本作は陸海空軍という3つの視点に分けて撤退戦を描いているが、そのどれもが、政治家や高級将校の視点ではなく、民間人や末端の軍人の視点で物語を紡いでいく形を取っている。そのため、ドーバー海峡を挟んだ対岸までイギリス軍の兵士たちが、戦闘機スピットファイアを操縦して敵のメッサーシュミットドッグファイトを演じたり、駆逐艦や徴用された民間の乗船に乗る兵士たちがドイツの潜水艦の魚雷で浸水して沈みゆく棺桶と化した船室に閉じ込められそうになったり、一方的に空から爆撃を受けたり、海面に火が付けば炎が燃え盛って文字通り火の海になるほどの重油まみれの海に放り出されたりするシーンがある。極限の撤退戦の中、辛抱強く生き残ろうとする軍人たちの姿が印象的だった。サヴァイヴァル感が半端ない。

この世界の片隅に」もそうだったが、
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政治家や高級将校の視点ではなく、民間人や末端の軍人の視点から描く作品ということで、今まで自分が体験したことない物語であった。どちらかというと今までの戦争を描いた作品は主人公がヒロイックに活躍して武勲を挙げるものとか、政治家や高級将校が自国の戦争遂行の大義名分を熱弁するものだとか、現代から過去の戦争の全容を俯瞰するものだとか、メタ視点や後知恵じみた話で戦争を語る作品に当たることが多かった。そのため、あくまでも視点で死線を掻い潜る人々の「いま、ここで」を描いた「ダンケルク」に新鮮味を感じた。

ダンケルク撤退戦後、撤退作戦の完了とドイツへの徹底抗戦の意志を示すチャーチル首相の名演説(の一部)も登場した。申し訳程度(?)の政治家の視点ということでここは一つ。

We shall defend our island, whatever the cost may be, we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender.