疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

Persona4 the ANIMATION+劇場版 The Factor Of Hope

これも以前書いたものの加筆修正版。

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大人気ジュブナイルRPGのアニメ版


去る7/9にペルソナ4のアニメの劇場版を見に行った。そこで昨年10月〜今年3月まで放送されたアニメの感想も含めて語っていきたい。当然ながら今回の内容はネタバレなので注意。

あなたは「理想の学園生活を描いた作品は何か」と問われたら、どう答えるだろうか。私にとってはペルソナ4こそ「理想的な学園生活」を描いた作品だと思う。今放送中の「氷菓」もそんな感じだが、方向性は異なる。P4Aではストーリーの展開に伴い、死者が出ているのだから。

本作の何が素晴らしいって、原作ゲームと同様、人物描写である。ペルソナシリーズ、もっと言えば派生元の女神転生シリーズ(私はこのシリーズをプレイしたことがないが)からの伝統なのだろうが、どのキャラも現実にいても不思議ではないように思えるのだ。

いかにも一般的なゲームやアニメに登場しそうな「キャラ」というよりも、ありのままの「人物」を描いているのではないか、というのが率直な感想。アニメのパーフェクトガイドによると、里中千枝役の堀江由衣も制作スタッフ側から「ありのままの自分で演じてください」という注文を受けたとか(ほっちゃん曰く、そう言われたのは初めてらしい)。話は逸れたが、主な登場人物については、後の項目でじっくり触れる。
 
舞台は現実の学園生活という「日常」、テレビの中の世界という「非日常」に、それぞれ軸足を置いた形になっている。現実世界では深夜0時に電源の点いていないテレビに人が映る「マヨナカテレビ」という都市伝説が噂されており、映った人が姿を消し、最初に失踪した2人変死体で発見されるという事件が起こる。失踪者はテレビの中の世界に入り込んでいるという。

原作ゲームではテレビの中の世界は入った人の心理を反映したダンジョンになっており、もう一人の自分「ペルソナ」(概念的にはジョジョの「スタンド」に近い)を駆使してシャドウと呼ばれる敵と戦い、失踪者を助けるという形になっている。アニメでは作品の性質上、助けるという側面が強調される。

本作の「ペルソナ」とは心理学用語(元々は「仮面」という意味のラテン語で、英単語personの語源)で、人と接する中で形作られる外面的自己のこと。人は接する相手や状況に応じて異なるペルソナを用い、社会性を獲得していく。 本作の本質は人と触れ合い、絆を育む中で成長していく少年少女を描くジュブナイルストーリーなのである。

ストーリーについて。時は2011年4月。主人公の鳴上悠は海外で働く両親の都合により、叔父・堂島遼太郎の暮らす田舎町・稲羽市内の八十稲羽高校に転校する。転校して間もなく、花村陽介、里中千枝といったクラスメイトと親しくなり、平穏な高校生活が幕を開けると思われた最中、市内で連続して変死体が発見される。当時市内では「マヨナカテレビ」という噂が流れ、事件との関係が噂されていた。そのことから悠たちは「自称特別捜査隊」を結成、現実とテレビの中、両方の世界をまたにかけ、事件の真相を追うことになった。

本作のテーマは「真実を知ること」。悠たち特捜隊は学園生活の中で事件の真相を追う中で様々な人と接し、楽しいものも辛いものも含め、いろいろな出来事を体験する。中には受け入れがたい、目を背けたくなるような内容のものもあり、特捜隊メンバーは「厳しい現実と楽な虚構」の二者択一を何度も迫られる。そのたびに試練を乗り越え、絆を深めていく過程はまさに青春の王道。その間に部活動、夏休み、修学旅行、文化祭といったスクールライフの描写も青春に彩りを添える。

各話サブタイトルが、作中の台詞を英訳したものになっているのも印象的。某魔法少女とは関係ないはず、多分。

劇場版

全体的にハイクオリティだった。9:10という早い時間帯に、1800円を払ってみる価値は十分にあった。

劇場版の内容はゲーム版でいうベストエンドの内容に沿っている。すなわち、悠が都会に帰る前日、3/20のイザナミ戦と翌日の別れの日までを描く。それまでの特捜隊の活躍の軌跡を総集編という形で振り返る。やっぱり12話のボイドクエスト編とか好演出だったことを改めて実感。

拘置所に入った足立の手紙がきっかけで、推理の洗い直しをするシーンは原作にもあったけど、送別会のシーンは新しい。女子勢のメシマズ料理と、逆ナンネタはやっぱり定番だった。稲羽市に来たとき最初に出会ったガソリンスタンドの店員が怪しいと踏んだ悠は、ガソリンスタンドに向かうが…。

イザナミの幾千の呪言により黄泉へと引きずり込まれる仲間たちを目の当たりにし、仲間たちとの思い出が幻影として見える悠。映画内のシーンのリフレインと思いきや、彼の目の下に隈ができていて様子もおかしい。その間に悠とマーガレットの対決を新要素として挿入。彼女が悠を叱咤する。どうせならマーラ様を出せばよかったのに。

ここでルシフェル、ロキ、ヨシツネといったペルソナが登場したのは、まさにファンサービスだった。悠のシャドウが現れかけたのも、原作ゲームとの差別化を図るためか。あくまでも一人の個人として。

マーガレットから見晴らしの珠をもらい、再びイザナミに挑む悠。珠の効力でイザナミが正体(伊邪那美大神)を現す。彼女は悠に人の幸福は霧に包まれ、厳しい現実を見なくてすむことだと告げ、悠にも幾千の呪言にかけようとするが…。絆の力で跳ね除け、「世界」のペルソナ・伊邪那岐大神を覚醒させ、幾万の真言イザナミを打ち払う。ピンチのときに最初に思い出したのは菜々子だったね!さすがナナコンの番長!

イザナミにとどめをさす前に、眼鏡がなくても真実は見える、と眼鏡を捨てるシーンは何度見ても格好良い。そしてエンディングへ。

キャラ:★★★★☆

・鳴上悠
主人公。その男気と初期ペルソナ・イザナギの姿から、「番長」としてファンに親しまれる。元々寡黙で転校を繰り返していたことから、人間関係に対して投げやりな部分があったが、仲間たちと接する中で頼れるリーダーとして成長を遂げる。序盤は喋り方も頼りなさ気だったが、終盤になると落ち着きを帯びてきた。基本的に無口で硬派だが、仲間の悪ふざけに乗ってみたり、冗談を言ってみたりとお茶目でユーモアの精神のあるナイスガイ。「そっとしておこう」、「ハイカラだろ?」などいろいろな名言を残す。

見所は12話。シャドウとの戦いの中で徐々に友達を失うという幻を見せる精神攻撃を食らい、窮地に立たされる。が、それまで培ってきた絆の力で得たペルソナを駆使して敵を撃破。この戦いで彼を助けた陽介とはそれまで苗字で呼び合っていたが、これを機に名前で呼び合うようになった点もポイントか。25話で自分の行いを認められない真犯人を「可哀想に…」と憐憫の情を寄せていたのもアニメでの追加要素。

鳴上悠とはアニメオリジナルの名前。悠=you=(プレイヤー)あなた自身がその由来らしい。

・花村陽介
悠より一年前に稲羽市に引っ越してきた社交的な男子生徒。父親がジュネスというスーパー(イ○ンとかパ○コみたいなもの)の店長であることから、地元の商店街の関係者や住民の中には、彼を快く思わない者も多い。退屈な田舎暮らしも相俟って、欲求不満を抱えていた。そんな中起きた事件に不謹慎ながらもワクワクしていたという心理は…個人的にはわからなくもない。

境遇の似ている悠と意気投合、面倒見も良く、頼れる「相棒」キャラ。24話で「お前と対等に立ちたい」と悠と河原で殴り合うシーンは一昔前の青春ドラマみたい。黙っていればイケメンだが、自転車で転んでゴミ箱に突っ込んだり、千枝に借りたDVDを割ったりと残念な面も多い「ガッカリ王子」。口数の少ない悠に代わってその場を仕切ることも多く、原作ゲーム共々、彼の位置付けはもう一人の主人公と言えるかもしれない。

・里中千枝
肉とカンフーをこよなく愛する明朗快活な少女。堀江病感染源。雪子とは古くからの親友同士。ボーイッシュで男勝りな千枝は、女性らしくお淑やかな雪子に劣等感を抱く一方、しばしば彼女から頼りにされることについて優越感も感じていた。作中でその心理に気付き乗り越える中で、雪子とはさらに固い絆で結ばれることに。

作中では陽介と並び、特にリアリティのあるキャラ。テレビの世界に消えた悠たちを心配して泣いたり、やたら美味しそうに肉丼を食べたり、虫を怖がったりと、実に多彩な面を見せてくれる。元々クラスで浮き気味だった陽介とも気さくに接していたり、不良グループに絡まれた高校生を一人で助けたりと分け隔てなく、正義感の強い一面も魅力的。そんなわけで私一押しの稀に見る良キャラ。

・天城雪子 
実家が営む老舗旅館の現役女子高生女将。その旅館の伝統や格式をしばしば疎ましく思うこともあった。が、テレビの世界の中で悠たちに助けられ、自分の家も仕事も周囲の人々も好きであることを改めて確認する。千枝とは性格は対照的だが、なかなか気が合う。

人柄は基本的にお淑やかな大和撫子だが、笑いのツボが常人よりずれている天然ボケキャラ。回を追うごとに爆笑してみたり、王様ゲーム中に場酔い(もはや泥酔状態)して暴走したりと、打ち解けるシーンが増えていくのも印象的。

・巽完二 
一人で暴走族を撃退するなどの武勇伝が噂される見た目通り(?)の悠たちの後輩。その一方で小さい頃から裁縫や編み物を得意とし、周囲にからかわれて反発、不良になったという過去を持つ、なかなか繊細かつ複雑なキャラ。彼にスポットライトが当たるアニメ7話はいろいろな意味でアッー!

 根は優しく真面目で硬派な性格。暴走族を撃退したのも、騒音に悩む母親のため。悠の舎弟的ポジションに収まる。おっとっとやホームランバーを好む年相応の一面も。

久慈川りせ 
稲羽市出身の準トップアイドル。実家は豆腐屋釘宮病感染源。悠たちに助けられたからか、他の釘宮キャラと異なり、最初から好感度がMAXに近いのが特徴。芸能界にいたからか、随分とませているが、意外と擦れていない素直な性格。誰も本当の自分を知らないのではないかという、アイドルならではの悩みを持つ。

ゲームではナビ役に徹する非戦闘員だが、アニメでは戦闘の場に居合わせていた。出番を増やすためか。ナビの画面が可愛らしかった。敵の弱点や攻撃法を文字でリアルタイムに表現するなんてレベルが高い。

・クマ 
テレビの中の住人。コミカルな外見同様(?)割と賑やかな性格。最初は着ぐるみの中が空っぽの謎の存在だったが、後で文字通りの中の人が登場。そのせいでますます正体不明に。

ムードメーカーとしてペルソナ4のストーリーを明るい方向に導いた立役者。りせが加入するまではナビ役だったね。中の人は割と美少年で、女装が似合う。声優という意味での中の人は山口勝平だったが、はまり役だった。こういう声も出せるんだね。

・白鐘直斗 
現役高校生探偵。といっても某バーローとか、某IQ180の名探偵の孫とは関係ない。クールな言動の「探偵王子」。これまでにも警察の以来を受け、数々の事件を解決に導く経歴を持つ。また、テレビに入っていないにもかかわらず、特捜隊と違ったアプローチで事件の真相に迫るなど、探偵としての腕前は確か。『ペルソナ×探偵NAOTO』の主人公。探偵としか見てもらえない自分に対して悩みを抱いていたが…。

実は男装女子で、本作屈指の萌えキャラ兼燃えキャラ。身長は低いが隠れ巨乳らしい。夏祭りで、ラブリーンになりきった菜々子と会話するシーンに意外な一面を見た。