L'aube de l'horizon

ごきげんよう

FLOWERS秋篇

だいぶ間が空いてしまったが、FLOWERS秋篇の記事が出来上がった。

春篇のレビューはこちら
kamikami3594.hatenablog.com

夏篇のレビューはこちら
kamikami3594.hatenablog.com

いばらの森

「FLOWERS」4部作の3作目で、起承転結の「転」にあたる秋篇。本作は頼れるニカイアの会会長の八代譲葉が主人公。自らを自嘲的に「オズの魔法使い」の心のないブリキの木こりに譬える譲葉は、ストーリーを通じて幼なじみにして親友の小御門ネリネとの関係を深めるが、その結末や如何に。

本作では春篇や夏篇のようなプラトニックな百合というよりも、生々しいセクシュアリティに関する話題を含んだレズビアニズムが扱われる。正真正銘の同性愛者と父なる神に仕えることを誓ったクリスチャンの関係ということで「マリア様がみてる」シリーズの「いばらの森」のエピソードの佐藤聖久保栞の関係に通じるものがある。というかむしろ、譲葉のキャラに聖さまの影響が強いように思える。告白後の顛末の他、後の聖を救ったのが先輩や同級生であり、譲葉を救ったのは後輩であるといった点に相違はあるものの、大筋で共通点を見出せる部分は見逃せない。このように主人公にセクシュアリティの苦悩を語らせると、その切実さがひしひしと伝わってくる。こちらも心がひりつくような感覚が終始続いた。

一度ネリネへの恋に破れた譲葉は、自らを慕う沙沙貴林檎との交際を始める。代償行為として始まった関係であるものの、共に過ごす時間は甘やかだった。それと並行するかのように、林檎が何者かによって負傷する事件が起きてしまう。犯人としてネリネが名乗り出ることで、譲葉は最大のピンチを迎えることになる。ここまではこのままだと誰も救われない茨の道であり、色々と百合作品の展開の中でもなかなかにショッキングなものだった。せつなさみだれうち

スリーアウトにはしませんよ

数々の傷心と心労から、譲葉は自分自身を案じて自室を訪問した苺とえりかをすげなく追い返し、その立場をさらに危うくする。この窮地を「ツーアウト」と形容する譲葉。だがこの時の蘇芳の

「スリーアウトにはしませんよ」
5章より

は格好良すぎて痺れる。苺とえりかは追い返した譲葉に対して、その場では意気消沈して見せたり、マジギレしたりするも、苺はえりかに、えりかは蘇芳にそれぞれフォローしており、譲葉は図らずも今まで築いてきた「佳い後輩」との絆に、自暴自棄と絶望の淵から救われた恰好となった。

特に蘇芳、春篇の始めの頃と比べると完全に見違えてしまう。あんなに引っ込み思案だったのに、姿を晦ましたマユリの後を追うために強くなり、ニカイアの会会長への推薦を受けて譲葉を救えるまでになったと思うと、感慨に耽ってしまう。彼女の言う通り"小御門ネリネ"は"匂坂マユリ"なんだろうな。

そして夏篇に引き続き、えりかと千鳥はラブラブ(死語)だった。特に千鳥は、えりかとの共同生活の甲斐あって、完全に別人になり果ててしまった。二人揃ってえりちど夫妻は爆発しろ!いつまで夏篇の気分でいるんだ。もう夏篇は終わったんだぞ!でも、えりちど夫妻が登場するだけでどんな険悪な雰囲気も和いだ。彼女らは衆生を救済する菩薩なのかもしれない。

今が嘘でもいい

その後林檎と交際に終止符を打った譲葉は改めてネリネにその愛を告白する。この時ネリネはかつて内気だった譲葉を自分の言いなりに従わせることが楽しくて愛玩動物のように扱っていたことを明かす。そのことは病床にあった譲葉の母親に見抜かれており、

「本当は譲葉を友達とは思っていないのでしょう」
6章より

と言われていた。

しかし、それで終わらないのが譲葉とネリネの関係である。ネリネが我が娘を本当に友達だと思っていなかったことを知った上で、譲葉の母はこの偽りの友に

「今が嘘でもいい。でもお願いです、どうか、どうか――」
「あの子と、譲葉と――」
「私の代わりに、ずっと一緒にいてあげてください」
同上

と、余命幾許もない自分に代わって娘の隣にいて終生の友になってほしいという思いを告げる。譲葉がこれを「赦せる方の過ちだ」として許したことで、初めて二人は結局聖と栞が結ばれることがなかった「いばらの森」や、アリサがジェロームへの恋を諦め、あくまでも神に仕えることを選んだアンドレ・ジッド『狭き門』とは異なる救いのある展開になった。こうして二人は晴れて結ばれ、ノエルの夜に壁を越えて学園を後にする…。

徒然なる雑記

秋篇を通してネリーはともかくとして、譲葉先輩や沙沙貴姉妹の印象は夏篇までと比較してガラッと変化した。蘇芳ちゃんはチートキャラ化が著しいし、立花も方向性を維持しつつ成長しているのが窺えていい。二度目になるがえりちどは爆発するべき。

今のところの「FLOWERS」シリーズの全般的な感想は、個人的に好きなのは夏篇だが、完成度の高さやストーリーのヴィヴィッドさでは秋篇の方が上という印象。最後に残された冬篇だが、蘇芳視点のExtraを最後まで見届ける限り、蘇芳が主人公として再登板する線が濃厚に見えてきた。きっとマユリを取り戻すための仁義なき戦いが幕を開けることだろう。

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