疾風勁草

子曰く、歳寒くして然る後に松柏の凋むに後るるを知る

2019年8月の読書

8月の読書メーター
読んだ本の数:18
読んだページ数:5103
ナイス数:163


KAエスマ文庫 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上巻KAエスマ文庫 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上巻感想
9月に劇場版上映を控えた京都アニメーションが送る人間ドラマ。孤児の少女兵だったヴァイオレット・エヴァーガーデンが、彼女の保護者だったがとある事情で行方が杳として知れなくなったギルベルト・ブーゲンビリア少佐を探し求める話。幼少期を戦場で過ごしたゆえに世事に疎いヴァイオレットの人となりは、性別は異なるが京アニでアニメ化された『フルメタル・パニック!』の相良宗介を連想させる。
読了日:08月01日 著者:暁 佳奈
ヴァイオレット・エヴァーガーデン 下(KAエスマ文庫)ヴァイオレット・エヴァーガーデン 下(KAエスマ文庫)感想
続き。過去に訳ありのヴァイオレットは少佐の伝手で郵便屋に雇われ、タイプライターで手紙を代筆して届けるという第二の人生を歩むが、その中で今まで知ることのなかった「愛」を学ぶ。文章の時点でとにかく美しい作品。この煌めきと祝福に満ちた世界観を映像でどのように表現したのか、刮目して見てみたい。
読了日:08月04日 著者:暁 佳奈
賭博者 (新潮文庫)賭博者 (新潮文庫)感想
賭ケグルイ』に触発されて再読。ルーレット賭博の熱狂ぶりはやはり作者がギャンブル中毒だったが故にものすことができた産物だと改めて思った。ロシア人やらフランス人やらのエスニックジョーク(?)ネタや、主人公アレクセイのポリーナやミスター・アストリーに向ける二律背反的かつ移ろいやすい激情も見ものだった。
読了日:08月06日 著者:ドストエフスキー
ヨーロッパ近代史 (ちくま新書)ヨーロッパ近代史 (ちくま新書)感想
ルネサンスから第一次世界大戦(ロシア革命)までのヨーロッパの近代史を概説。ダヴィンチ、ルター、ガリレオ、ロック、ヴォルテールゲーテダーウィンレーニンと各時代の主要人物の人生と彼らが生きた時代背景を、科学と宗教の相剋という視座から語るという叙述スタイルが世界史の見方の再構成に役立った。「神の時代から人の時代へ」という考え方がルネサンスから始まって、宗教改革や市民革命に波及していく関連性と連続性が鮮やかに示されていたと思う。
読了日:08月09日 著者:君塚 直隆
ヨーロッパ現代史 (ちくま新書)ヨーロッパ現代史 (ちくま新書)感想
第二次世界大戦後から2010年代までの英仏独露を中心としたヨーロッパの現代史。現代の移民・難民やテロなどEUが抱える問題と、手厚い福祉国家と自由放任の資本主義、そしてエリート主義とポピュリズムとの相互の関係がよくわかる一冊。
読了日:08月10日 著者:松尾 秀哉
アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)感想
百合とSFのマリアージュと言っていい短編集。中でも亡き恋人に送れるメールの文字数が最初は短歌だったのに日を追うごとに減っていく悲哀が漂う「四十九日恋文」、吉屋信子花物語』をモチーフにした耽美的な吸血鬼ものの「彼岸花」、ソ連における百合を描いた「月と怪物」が印象に残っている。何より各作家の発想の自由度や作品の完成度に脱帽。
読了日:08月13日 著者:
異邦人 (新潮文庫)異邦人 (新潮文庫)感想
再読。自分の感情に率直なあまり、世間一般の憎悪を買って死刑判決を言い渡されるムルソーは憐れむべき人間かもしれない。だが、本人の振る舞いそのものが悲哀のような湿っぽい感情をまったくと言っていいほど惹起させない点は清々しい。母親の死に涙を流さないという理由で人を蛇蝎の如く忌み嫌い、処刑に追い込む世論の過激で感情的な一面を、作者は持ち前の筆力によって見事に照射していると思った。
読了日:08月14日 著者:カミュ
ゴリオ爺さん (古典新訳文庫)ゴリオ爺さん (古典新訳文庫)感想
前々からピケティ『21世紀の資本』で引用されていて気になっていたので読んでみた。例の箇所は「アメリカで土地を転がして農地経営する方が、パリで法曹として高給取りになるよりいい」というもので、蓄財の末に娘を名家に嫁がせたゴリオ爺さんの人生とともに本作の主旋律を構成しているものだった。主人公ラスティニャックが飛び込んだ華やかな社交界ゴリオ爺さんの父性愛の描写も当時の俗世間の一端として活き活きとしていて興味深いものだった。
読了日:08月16日 著者:バルザック
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)感想
ノモンハン事件から沖縄戦まで、「大東亜戦争(本著の表記に基づく)」における各作戦の日本軍が招いた失敗の実態を分析。人員や資源の数量の不利を精神論で糊塗する、過去の成功例に固執する、不明確な目標設定、上官の私情が介在する人事、フィードバックの欠如、零戦戦艦大和などの一点豪華主義など、日本軍が抱えていた病理を剔抉する。まとめると、チーム全体の実力の向上を怠り、スター選手のファインプレーに依存するチームでは勝てない。と言ったところ。
読了日:08月20日 著者:戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎
世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)感想
数年前話題になった碩学による世界通史。史上重要な人名や事件名も固有名詞で表記されているとは限らない点に、特定の人物や事件に必要以上に肩入れしない平等性を志向しているさまを垣間見た。歴史というと人物や事件の説明に筆を割きがちだが、それらに囚われることなく動態として歴史を理解せよ、ということだろうか。
読了日:08月20日 著者:ウィリアム・H. マクニール
繭、纏う 2 (ビームコミックス)繭、纏う 2 (ビームコミックス)感想
群像劇とファンタジー要素を帯びてきた2巻目。‪ノルン三姉妹の話題が出たことでより妖しげな空気が漂っている。耽美で手で触れれば崩れ落ちそうな雰囲気は相変わらず。
読了日:08月24日 著者:原百合子
世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)感想
下巻は大航海時代以降のルネサンスや市民革命、産業革命と目まぐるしい変化を流れとして捉えることに力点が当てられているように思った。個々の事物ではなく流れとして歴史を捉えよ、とよく言われるが、その難しさを痛切に感じた。あと日本の開国〜明治維新の流れの鮮やかさと特異性に驚いているような記述が印象的。
読了日:08月25日 著者:ウィリアム・H. マクニール
エーゲ海を渡る花たち(2) (メテオCOMICS)エーゲ海を渡る花たち(2) (メテオCOMICS)感想
無知なことにラグーザ共和国のことをよく知らなかったので勉強になった。500年以上も前の料理を漫画内で忠実に再現しているらしいが、なぜこんなにおいしそうなんだろう。そして2人はようやくエーゲ海にたどり着きそう。
読了日:08月26日 著者:日之下あかめ
さよならローズガーデン 2 (BLADE COMICS pixiv)さよならローズガーデン 2 (BLADE COMICS pixiv)感想
互いを思慕し合うがゆえの華子とアリスの思い違いがなんとも哀切だった。そして主人とメイドの関係についても高い壁が立ちはだかっている。本作はオスカー・ワイルドの死に言及していることからもわかるように、禁忌とされた同性愛の壁の存在を意識しているが、同時に主人と使用人同士の恋という禁忌も意識しているように思った。
読了日:08月27日 著者:毒田ペパ子
乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(4) (アクションコミックス(月刊アクション))乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(4) (アクションコミックス(月刊アクション))感想
籠城戦の凄惨な描写に当時の情勢の危うさがよく表れていた。それにしても、ダイバースーツ(?)がなかなか高性能。
読了日:08月27日 著者:大西 巷一
乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(5) (アクションコミックス(月刊アクション))乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(5) (アクションコミックス(月刊アクション))感想
フス派の中のターボル派とアダム派の内訌。アダム派の振る舞いが理解を超越していてシュールに映った。ここでガブリエラも脱落か……。シャールカの周囲に死の影は尽きない。
読了日:08月28日 著者:大西 巷一
君と漕ぐ2: ながとろ高校カヌー部と強敵たち (新潮文庫nex)君と漕ぐ2: ながとろ高校カヌー部と強敵たち (新潮文庫nex)感想
関東大会@精進湖に進出したながとろ高校カヌー部。そこで待ち受けていたのは一癖も二癖もある手強い選手たちだった。実力的な意味でも、性格的な意味でも。希衣と千帆の関係の訳ありぶり、それから堀・神田ペアのデジャヴを感じさせる凸凹コンビぶりが印象深かった。「響け!ユーフォニアム」の大所帯と異なり、一対一の関係に注力できるのは大きな特徴か。肝心の展開もマイナーだが王道的なスポーツものという感じで熱気にむせ返りそうだった。
読了日:08月29日 著者:武田 綾乃
乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(6) (アクションコミックス(月刊アクション))乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(6) (アクションコミックス(月刊アクション))感想
ワゴンブルクによる戦術の優位を崩されたり、ジシュカが完全に失明したりと、引き続きフス派の状況は思わしくない。その中でも本作が絶望一色に染まらないのは、シャールカら登場人物(特に女性陣)の絶望的な状況でも足掻き続ける姿勢によるものだと思う。
読了日:08月29日 著者:大西 巷一

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