ニーナとうさぎと魔法の戦車
- 作者: 兎月竜之介,BUNBUN
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/09/25
- メディア: 文庫
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ガルパンに先駆けて戦車で戦う少女たちを描く
また一つ百合系ライトノベル作品(俺様定義)を読み終えたので、紹介も兼ねて記事を書いてみようと思う。全8巻。
見出し通り、この記事で扱う『ニーナとうさぎと魔法の戦車』は戦車で戦う少女たちを主役とする作品だが「ガールズ&パンツァー」とは一味も二味も違う。というのも、スポーツとしての「戦車道」を描いた「ガルパン」と異なり、本作「ニーナ」での戦いは己の命を懸けたものであり、戦争の悲惨さや残酷さ、戦争による人心や社会の荒廃を描いたものであるからだ。
舞台は石油や電気の代わりに魔法が存在し、戦車もまた魔法を動力源とする世界。その中で人々は魔力で動き、人を襲う野良戦車の恐怖に脅かされていた。小国の辺境にある田舎町の貧しい家で育ったニーナは、人身売買の対象として両親に売られ、その後は野良戦車と戦う私立戦車隊*1で奴隷のように酷使される日々を送っていた。そんな日々に堪えかねて逃げ出したニーナを救ったのが、ドロシー率いる少女たちだけの私立戦車隊「首なしラビッツ」である。砲手としてラビッツに迎えられたニーナはメンバーとの絆を育むとともに、その一員として野良戦車や旅先で遭遇する敵との戦いに身を投じていく。
その後はニーナが両親に再会して和解したり、野良戦車を操る魔法を使える少女アリスが紆余曲折の末に仲間としてラビッツに迎え入れられる、といった展開を迎える。展開としては戦場で何度も窮地に陥ったり、敵に対して劣勢を余儀なくされたりするも、持ち前の団結力とそれらを乗り越えていく、というごくごく王道的なものになっている。特に、自分の能力を悪用しようとする人間に追われると共に、その能力によって人々から忌避されて「自分はいないほうがいい」と思っていたアリスがニーナの熱意に折れて、ラビッツの仲間入りを果たすという展開はありがちだが熱い。
百合に着目して秀逸なのは4巻で描かれたクーとエルザの関係。クーは学校の先輩であったエミリアが昏睡状態の兄を復活させる魔法の実験に協力するため、ラビッツを抜けて復学しようとするが、その際エルザがクーを制止しようとして二人の関係がこじれてしまう。というのも、クーがエミリアへの思慕を隠そうともしなかった上に、エルザがエミリアに家柄や能力などあらゆる面に劣等感を抱いていたため。その後、クーもあわやという局面を迎えるが、エルザの献身により最悪の事態は避けられた。むしろこれをやるために戦車の動力源を魔力にしたのでは(名推理)。その後はみんな大好き恒例の百合仲直りタイム。
その他個人的に好きなのはマドガルドの描き方。1巻であっさり(?)捕まるも、終盤に解放されてハイディマリーとシルヴィアの企みに共謀したマドガルドも一貫性のある悪役として魅力があった。最後の最後で一応娘にあたるアリスを庇って死んだのも「強い者は生き残る価値がある」という彼の価値観を体現したものだと思っている。れっきとした悪ではあるものの、人物描写に深みと奥行きがある。「首なしラビッツ」とは仲間から死者を出さない、敵を死なせることなく降すというダブルミーニングを持っているが、それに強い説得力を持たせることに貢献したキャラがこのマドガルドだった。終盤で名前を挙げたエミリアをはじめ、ラビッツと縁のある人々が集結してハイディマリーらとの決戦に挑むという構図も、チーム内のみならず、出会った人々との絆も重んじる本作らしい。
*1:現実世界でいう戦車を所有する傭兵部隊